[I-S06-02] 肥大型心筋症の発症機序
Keywords:肥大型心筋症, 遺伝子変異, 病態形成
肥大型心筋症(HCM)は、明らかな誘因なしに心室筋の肥大と拡張障害を来たす疾患であるが、患者の多くに常染色体性優性遺伝形式に合致する家族歴が認められることから、遺伝子変異が原因であるとされ、多発家系の連鎖解析や候補遺伝子アプローチによって、1990年の心筋βミオシン重鎖遺伝子の発見以来、多数の原因遺伝子ならびに病因変異が明らかになっている。我々は主に成人患者を対象とした原因遺伝子探索と同定された病因変異による機能異常の解析を行っているが、家族歴(HCMや突然死)が明らかな患者(家族例)の約半数、家族歴がない(もしくは不明な)孤発例の約15%に病因となる遺伝子変異が見出される。また、家族例の3%程度は複数の原因遺伝子に変異を有する重複変異例である。病因変異の多くは心筋ミオシン重鎖、ミオシン結合タンパクC、トロポニンなどのサルコメア収縮要素遺伝子に検出されるが、Z帯構成要素遺伝子やI帯構成要素遺伝子に検出される例もあり、HCMの病因は多種多様である。病因変異がもたらす機能異常の観点から言えば、HCMにおける病因機能異常は、(1)筋収縮のカルシウム感受性亢進、(2)サルコメア硬度異常、(3)代謝ストレス反応異常などに分類されると考えられる。最近我々は心筋症関連67遺伝子についての網羅的変異検出システムを立ち上げ、これを用いて小児HCM例の遺伝子解析を行っているが、成人例の場合と異なり、小児例では家族歴の有無によらず70~80%に変異が見出されることや孤発例には新生変異が多いことなどが明らかになっている。本シンポジウムではHCMの病因変異に関する最近の研究状況を紹介する。