[II-P-124] 重症肺高血圧モデルラットにおけるバルプロ酸による治療効果と作用機序
Keywords:肺高血圧, 肺血管リモデリング, バルプロ酸
【背景】肺高血圧症(Pulmonary Hypertension: PH)は肺血管組織の進行性の増殖を伴う難治性疾患である。肺血管組織のリモデリングに作用する治療薬の報告はまだ少ない。ヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deacetylase, HDAC)阻害薬は遺伝子発現に作用し、細胞増殖と炎症反応を抑制する。【目的】モノクロタリン(Monocrotaline, MCT)単回投与法及び慢性低酸素暴露法(Chronic Hypoxia, CH)を併用した重症PHモデルラットを用いて、HDAC I阻害薬であるバルプロ酸(Valproic Acid, VPA)の治療効果と作用機序を検討することである。【方法】コントロール群:生理食塩水を単回皮下投与した。MCT/CH群: MCT注射後CHで飼育した。予防群/予防対照群:MCT/CH暴露開始から3週間の間毎日VPA/Vehicleを投与した。治療群/治療対照群:MCT/ CH暴露3週間後から5週間後まで毎日VPA/Vehicleを投与した。実験開始後3-5週で右心室収縮期圧(RVSP)と右室重量を測定し、肺血管リモデリングを組織学的に評価し、さらに分子生物学的検討を行った。【結 果】コントロール群に比べて、MCT/CH群のRVSPが上昇し、右心室肥大をきたしていた。肺血管の中膜肥厚、小動脈の筋性化、細胞増殖、炎症反応の上昇がみられた。予防対照群と比較して,予防群ではこれらPH進行の指標はいずれも低く抑えられていた。治療対照群と比較して,治療群もPHの改善効果が認められた。分子生物学的検討により、VPAは重症PHモデルラットの肺血管におけるCasp3とp21遺伝子の発現を増やし、HIF1a、MCP1、Bcl2、Bcl-xl遺伝子の発現を抑制した。【考 察】VPAはPHによる予防と治療効果があり、その作用機序は肺血管の細胞増殖と炎症の抑制、アポトーシスの促進作用よるものと考えられた。【結 語】重症PHモデルラットにおいて、VPAが治療効果を示したことから、PHの治療薬としてHDAC阻害薬が有効である可能性が示された。