[II-P-153] 小児開心術中に人工肺異常凝集を起こした1例
Keywords:人工心肺, 血栓, 合併症
(はじめに)開心術中の人工心肺回路や装置の異常は、重篤な合併症を起こす可能性があり、以前から膜型人工肺の酸素化不良が報告されている。近年人工肺手前圧が測定されるようになり、以前から測定されていた人工肺後送血回路圧との差で、人工肺内圧が確認されるようなった。開心術中に人工肺内圧上昇が起こる例が報告され、特に小児例で頻度が多いことが判明した。原因としては、患者素因や人為的ミスに由来する血栓形成以上に、充填液組成に関連した赤血球エキノサイト化、冷却に伴う寒冷凝集素等の凝集塊形成などの関与が示唆されている。人工肺が交換された頻度は1000件に1例とアンケート結果で示されている。今回我々は、血液充填の小児開心術で人工肺異常凝集を起こし、人工肺の交換を行った1例を経験したので報告する。(症例)2歳女児で、身長87cm体重12.5kgであった。診断は、多脾症候群、両大血管右室起始症、下大静脈欠損、左上大静脈でTCPS術後である。今回肝静脈―半奇静脈吻合を行い、TCPCを完成する予定であった。血液充填で人工心肺回路を組み、充填液の除水を施行した。癒着剥離に時間を要し、回路充填後、人工心肺開始まで3時間かかった。人工心肺開始前のACTは745であった。人工心肺開始時の人工肺内圧が40 mmHgであったのが、開始後10分で340 mmHgまで上昇した。心拍動中であったので人工心肺を離脱し、人工肺の交換を施行した。人工肺交換後は人工肺内圧の上昇はなく、問題なく手術を施行できた。内圧上昇が起こった人工肺は、顕微鏡検査にて凝血塊の付着が認められた。今回の人工肺異常凝集は、血液充填でやや長時間回路内を回して、アルカリ性に傾いて赤血球エキノサイト化が起こったためと推定された。(結語)今後の対策として、血液充填時はアルカリ性に傾かない工夫を行う事、なるべく血液充填を避ける事、人工肺の交換用回路を準備しておき交換時間のさらなる短縮を図る事などを検討した。