第51回日本小児循環器学会総会・学術集会

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シンポジウム

シンポジウム9
小児心臓移植医療・補助循環

Fri. Jul 17, 2015 2:40 PM - 4:10 PM 第1会場 (1F ペガサス A)

座長:
福嶌 教偉 (国立循環器病研究センター)
市川 肇 (国立循環器病研究センター)

II-S09-01~II-S09-06

[II-S09-05] わが国における小児の脳死下臓器提供の現状と課題

植田 育也 (埼玉県立小児医療センター 集中治療室・救急準備担当)

Keywords:脳死, 臓器提供, 医療体制

2010年7月の改正臓器移植法の施行以来、15歳未満の小児からの脳死下臓器提供は過去7名(2015年4月現在)である。この数は、多いのだろうか少ないのだろうか?
欧米のデータと比較すると、確かに人口比で日本の小児の脳死下臓器提供の発生率自体は低い。これは一般的には、「欧米と日本との死生観の違い」とも表現されるかもしれない。ただし、この哲学的な命題の原因分析は困難であり、またその変化も短期間には望めない。
むしろ本講演では、小児の脳死患者が存在し、家族に臓器提供の意思があった場合に、それでも提供に繋げられていない事例があるのかどうか、もしあればその原因は何なのかについて、考察を加えてみたい。
本邦における小児の潜在的な脳死下臓器提供数を推計するために、「全国での小児の脳死患者の発生予測数」×「世論調査での小児の臓器提供を是とする回答割合」を試算してみると、その数は実際の提供数よりかなり少ないことがわかる。この理由には何があるのだろうか。定性的な分析は困難であるが、ここでは「医療者の心情の問題」と「医療体制の整備の問題」について考えてみたい。
「医療者の心情の問題」とは、「長期脳死」の問題や看取りに対する不慣れさから、小児医療従事者が家族に脳死を告知することを躊躇する状況を生んでいることである。また「医療体制整備の問題」とは、小児の重症な救急患者を集約化して診療する体制、および脳死に至った場合の提供施設の診療支援の体制が、未整備であるということである。
救急医の立場としては、まずは救命治療を尽くすのが第一義である。しかしそれが果たせない場合の看取りのケアの一環として、家族の臓器提供の意思は、しっかりと臓器提供に繋げていきたいと考えている。