[III-P-098] 著明な左肺高血圧から右心不全をきたした右肺動脈上行大動脈起始症の1乳児例
キーワード:右肺動脈上行大動脈起始症, 左肺高血圧症, 右心不全
【背景】右肺動脈上行大動脈起始症は、主肺動脈が左肺動脈とのみ交通し、右肺動脈は上行大動脈より直接起始する比較的稀な疾患である。通常、左肺動脈は右室からの血流をすべて受けるため、肺血流増加による肺高血圧を示す。今回我々は、左肺血管抵抗が著明に高く、右室から肺動脈への血流がほぼ途絶し、右心不全をきたした1例を経験したので報告する。【症例】生後1ヶ月の女児。咳嗽、喘鳴のため急性上気道炎として前医へ入院した。酸素飽和度83%で、X線で心拡大を認めたため、心疾患を疑われ当科へ紹介された。心エコー検査で右肺動脈上行大動脈起始症と診断したが、右室から主肺動脈への血流がほぼ途絶し、右室は重度の三尖弁逆流を伴い拡大と壁運動低下を認めた。心臓に還流した血液は卵円孔を通って左心系へ流出し、卵円孔狭小に伴う肝腫大を認めた。入院翌日に心臓カテーテル検査を施行。右室圧は左室圧を凌駕していたが肺動脈狭窄は認めず、左肺血管抵抗の著明な上昇が示唆された。右室造影では左肺動脈の描出は不良であり、カテーテルを主肺動脈まで進めて行った造影で、左肺動脈末梢は細く枯れ枝状に描出された。同時にバルーン心房中隔裂開術を行い、2日後に右肺動脈主肺動脈吻合術を施行。肺血管拡張療法を併用したが、術後の左肺血管抵抗の低下は速やかであり、退院前の肺血流シンチで左右差を認めなかった。【考察】本症において、右に比較し左肺が肺高血圧を示すという報告はあるが、これまでに自験例の様に高度な症例の報告はない。機序は明らかではないが、本症は胎児期から左右肺動脈血流の酸素飽和度が異なる類稀な疾患であり、その血行動態に起因する病態であることが推測された。【結語】今回我々は、高度の左肺高血圧症を認めた右肺動脈上行大動脈起始症の1例を経験した。卵円孔狭小化により死亡に直結する病態であり、このような病態があることを念頭に治療にあたる必要がある。