第53回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

Legend Lecture

Legend Lecture 2 (II-LL2)
左心低形成とともに

2017年7月8日(土) 15:40 〜 16:00 第1会場 (1F 展示イベントホール Room 1)

座長:河田 政明(自治医科大学 とちぎ子ども医療センター 小児・先天性心臓血管外科)

15:40 〜 16:00

[II-LL2-01] 左心低形成とともに

岸本 英文 (元 大阪母子医療センター 心臓血管外科)

左心低形成症候群(HLHS)に対するNorwood手術(1981年)は、当時本邦ではほとんど救命例がありませんでした。術後の肺血流をBT shuntで得るNorwood手術は、肺血流が体血流から供給される術前の血行動態と基本的に変わらず、生まれてすぐの新生児に大きな手術侵襲を加えて助けることは難しいと私は考えていました。国立循環器病センター勤務時代(1986~1991年)、単心室に合併した総肺静脈還流異常の修復を体外循環下に行った症例のうち、肺動脈閉鎖例よりも、肺動脈狭窄や肺動脈絞扼術後の例で救命率が高いことに気づき、肺への血流はBT shuntではなく、肺動脈狭窄の状態にすれば救命できると確信しました。
大阪母子医療センターにおける第1例目(1992年)で、手術の侵襲を少なくするため心停止を行わずに心拍動下に手術を行うこととし、上行大動脈は切り込んで拡大せず、肺動脈幹と大動脈の間にウマ心膜ロールを間置し、肺への血流路は内径6mmの3弁つき異種心膜ロールをRV-PA conduitとしました。予想通り体外循環からの離脱は容易で、今までに経験したこともない安定した血行動態で、酸素飽和度が少々高くても、また肺血管抵抗の変化があっても体血圧はほとんど変動せず、尿量はしっかり確保されました。その後、佐野、角両先生が低体重児のRV-PA Norwoodの手術成功例を1998年に相次いで報告し、本術式が世界中で認められ新しい標準術式の1つとなりました。
HLHSがFontan手術に到達できるようになった大きな要因は、新生児早期の両側肺動脈絞扼術の導入により出生直後の開心術を避けることができるようになったこと、動脈管を開存させたまま乳児期にNorwood手術と同時にGlenn手術を行うというオプションを持ったこと、Norwood手術後早期にGlenn手術を行って付加的肺血流を減らし心室の容量負荷を減じるようになったことなどと考えます。しかし手術を受けた子供たちが大人になっていく上でいろいろな問題があり、まだまだ道半ばです。