[I-OR19-01] Sry関連HMG-box転写因子Sox17の心内膜前駆細胞の分化と心臓発生に果たす役割
キーワード:心臓発生, 心内膜, Sox17
心筋を含む心臓を構成する主要な細胞は、心臓前駆細胞から分化すると一般的に考えられている。しかしながら、特異的マーカーが知られていないことから、心内膜細胞の起原および 分化過程の多くが不明のままである。ゼブラフィッシュのcloche変異の表現型は、血球細胞と内皮に分化する能力を有する血管芽細胞と心内膜が共通の起原を有することを示唆している。一方で、心臓前駆細胞の代表的マーカーである転写因子Nkx2-5を発現した細胞が心内膜へと寄与することが示されており、この事実は心臓前駆細胞から心内膜が分化することを支持するように思われる。私達は、心臓前駆細胞の特質と分化機構の解析を目的に、マウス初期胚における心臓前駆細胞の単一細胞遺伝子発現プロファイリングを行った。これにより、従来は内胚葉のマーカーとして信じられてきたSry関連HMG-box転写因子Sox17が、中胚葉の細胞の中で主としてNkx2-5陽性の心臓前駆細胞に一過的に発現し、Sox17を発現する細胞系譜は胚体内では心内膜細胞へと分化することを見いだした。Sox17の心内膜細胞への分化に対する十分性を検証するために、心臓前駆細胞で強制的にSox17の発現を誘導したところ、一部の心筋が内皮マーカーを発現していた。即ち、Sox17は心内膜細胞分化に十分では無いが、内皮への分化に強いバイアスをかける機能が有る。一方、中胚葉特異的にSox17が欠失した場合、心円筒のルーピング異常、心室心筋の肉柱形成不全と、心筋や心内膜の増殖能の著明な低下を認め、Sox17は心臓発生過程に関し、心内膜の分化成熟のみならず、心筋の分化成熟と心臓形態のパターニングに必要であることが判明した。これらの得られた新知見を軸に、心臓発生に寄与する細胞系譜と心内膜の果たす役割に関して議論したい。