[II-S08-05] 機械弁置換術後の妊娠
キーワード:人工弁, 妊娠, 成人先天性心疾患
機械弁植え込み後の症例では抗凝固療法に関連する問題が大きく、未だに議論の絶えない領域である。血行動態的に機能的に問題のない人工弁であれば妊娠には十分耐えうる。しかし、機械弁で必要となる抗凝固療法が問題となり、機械弁への血栓の付着、出血といった母胎のリスクだけでなく、胎児奇形のリスクを増加させる。【母胎リスク】妊娠中は血栓形成のリスクが高まることも在り、機械弁への血栓形成が大きな問題となる。機械弁の血栓形成のリスクは、妊娠の全経過で経口抗凝固薬のみを使用した場合には3.9%、妊娠の初期に未分画ヘパリンを妊娠の中期と後期に経口抗凝固薬を使用した場合は9.2%、妊娠の全経過で未分画ヘパリンを使用した場合には33%、と報告されている。さらに母胎死亡のリスクは各々の群で2%、4%、15%と報告されおり、多くが機械弁の血栓形成に関連していた。さらに未分画ヘパリンは血小板減少症や骨粗鬆症と関連を引き起こす危険性がある。低分子ヘパリンのエビデンスも蓄積されており、9%に機械弁の血栓形成を認めたと報告されている。しかし、低分子ヘパリンの治療域の判定は難しく、さらにして至適治療域の判定も困難である。【胎児リスク】全ての抗凝固療法は早産、流産、死産や胎盤出血のリスクが高まる。さらにワルファリンは胎盤を通過するので、妊娠初期に使用すると催奇形性があることが知られている。その確立は報告により異なるが1.6%~10%といわれており、最も多い異常は骨形成、軟骨形成の異常であり、ついで脳神経の発達の異常で小脳症などがある。ワルファリンの催奇形性は容量依存性ともいわれており、投与量が5mg未満であれば催奇形性のリスクは低いとも報告されている。