[III-S14-05] 先天性心疾患患者の多様性に向き合った心保護薬の使い方を探して
キーワード:心不全, 心保護薬, 先天性心疾患
心不全に対する心保護薬の代表はレニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン系抑制薬とベータ遮断薬であるが、これらがガイドラインで推奨される根拠となる病態生理学的理論や臨床試験のエビデンスは、そのほとんどが心血管構造異常を伴わない2心室の心臓に生じた成人心不全におけるデータに基づいている。先天性心疾患(CHD)は、遺残病変を残さずに修復可能な単純型CHDを除き、スタートラインがステージBの心不全状態であり、心不全発症前からの積極的な介入という長期予後を見据えた治療戦略からは、あるべき心保護薬の使い方が提示されることが望まれる。しかしCHD患者の心不全発症には、心血管構造異常、修復術式、術後遺残病変、不整脈、心室筋性状など血行動態に直接影響を及ぼす因子のみならず、術後経過年数、年齢、神経液性因子反応、心外合併症、遺伝的背景、日常生活活動度など極めて多彩な因子が絡む。さらに薬物作用には、年齢、遺伝的多型などによる薬物動態の差異や薬物アドヒアランスも影響する。どの薬を、どのタイミングで、どの量で使うのか、についてある程度の指針を導くためには、洗練された研究デザインのもとに行われる息の長い臨床研究が必要であるが、現時点では、心不全の病態を時系列で正確に把握し、薬の導入による効果と副作用を定期的に客観的に評価し、個々の患者の多様性に向き合いながら心保護薬の調整を積み重ねることが大切ではなかろうか。重症心不全に陥ったCHD症例の心保護薬の使用歴と中止歴を振り返り議論を深める材料にしたい。