[I-S01-01] 遺伝学的研究による成果の川崎病冠動脈病変予防への応用の現状と展望
キーワード:遺伝情報, 冠動脈病変予防, 薬理遺伝学的研究
疫学上の知見より、川崎病における個人の罹患感受性、人種間での罹患率の違いに遺伝要因の関与が大きいことが示唆されており、遺伝要因の検索が国内外で試みられている。近年大規模な遺伝疫学研究の手法が確立し、我々のグループでも多数の医療機関との連携により収集しえた患者ゲノムDNA試料をゲノムワイドに解析、複数の遺伝子領域の一塩基バリアントと川崎病の罹患感受性との関連を見出してきた。そのうちITPKCおよびCASP3遺伝子に関しては、川崎病に罹患した際の免疫グロブリン静注(IVIG)治療の有効性や冠動脈病変合併のリスクとの関連が確認され、重症化のリスク要因でもあることを明らかにしている。この知見は両遺伝子の産物が制御に関わると予想するCa2+/NFAT経路の阻害剤、シクロスポリン(CsA)の臨床研究・医師主導治験(KAICAトライアル)へと橋渡しすることができ、IVIG+CsAの初期併用療法が冠動脈病変予防に有効であることが示された。ITPKC, CASP3の遺伝型によりCsAの冠動脈病変予防効果を予測できる可能性を示すデータも得られており、IVIG不応の正確な予測や、個々の不応予測例に最適な薬剤を初期治療から併用する「精密医療」の実現を目指し、さらなる薬理遺伝学的知見の蓄積が望まれる。様々な研究デザイン、進歩する研究技術での解析に最大限活用すべく、川崎病患児のゲノムDNAと臨床情報をオールジャパン体制で収集・解析する共同研究「川崎病遺伝コンソーシアム」が、2012年に始動、収集検体数2000を超え現在も進行中である。薬理遺伝学的研究のほか、病因の解明に資する研究の貴重な資源として大いに期待される。