第55回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

宮田賞受賞講演

宮田賞受賞講演(II-MPL)

2019年6月28日(金) 08:30 〜 09:30 第6会場 (小ホール)

座長:平松 祐司(筑波大学 心臓血管外科)

[II-MPL-02] ドキソルビシン心筋症に対するナノマシンを用いた新たな心筋幹細胞移植療法の開発

阿部 二郎 (北海道大学大学院医学研究科 小児科教室)

キーワード:MITO Cell, MITO-Porter System, ドキソルビシン心筋症

ドキソルビシン心筋症は代表的な薬剤性心筋症の1つであり、有効な治療法はない。多くのcancer survivorが社会復帰している時代において、アントラサイクリン系抗癌剤の心血管毒性は長期予後にも影響を及ぼし、治療法の開発は急務である。ドキソルビシン心筋症において細胞移植療法は有用とされているが、心筋幹細胞はドキソルビシン耐性が低く、ミトコンドリア由来の酸化ストレスが増大した心筋組織内でも移植が成立する技術開発が求められる。心筋幹細胞ミトコンドリアに対してMITO-Porter systemによりレスベラトロールを選択的に送達し、MITO Cellと命名し、移植用のドナー細胞として調製した。マウス心臓に移植した後、ドキソルビシン投与によって心筋ミトコンドリア傷害を起こし、MITO Cellを含めた心筋幹細胞移植の効果を各群で解析した。驚くべきことに、心筋組織ミトコンドリア酵素活性と膜電位の有意な上昇に加え、酸化ストレス軽減を確認し、ドキソルビシン心筋症モデルマウスの生存率は、従来の心筋幹細胞移植法よりも有意に延長していることが確認された。MITO Cellを移植した心筋組織内では、ドキソルビシンの標的となるミトコンドリア新生関連遺伝子やOXPHOS関連遺伝子の発現が保たれていることがわかり、呼吸鎖酵素複合体タンパク質レベルも保持されていた。心筋ミトコンドリア新生や電子伝達系の維持がMITO Cell移植群の生存率寄与に影響していることが示唆された。MITO-Porter systemを用いてミトコンドリア保護分子を幹細胞に送達することは、重症心不全に対する幹細胞移植療法の有効性を高める可能性がある。
現在、虚血再灌流マウスをモデルにしてMITO Cellの治療的効果を検証するため、北海道大学薬学部と共同研究を継続している。