[II-OR29-05] 著しい偏食によるビタミンC欠乏が原因と考えられた重度肺高血圧症の1例
キーワード:自閉スペクトラム症, ビタミンB1欠乏症, 鉄欠乏
【はじめに】ビタミンB1(VB1)欠乏症,いわゆる脚気に高拍出性心不全,肺高血圧(PH)を合併する報告は散見される.VB1投与後も残存する偏食児に合併した高度PHに対し,ビタミンC(VC)投与が著効した症例を経験したので報告する.【症例】3歳5ヵ月の男児.自閉症に伴う高度偏食があり,白米,食パン,鶏そぼろ以外摂食せず.3歳3ヵ月時,下肢の運動障害が出現,進行性に歩行困難となりギランバレー症候群が疑われた.IVIG治療中に心不全を呈し,心エコー検査で右室圧上昇を認めた.生活歴より脚気心が疑われ,利尿剤及びVB1投与すると心不全は軽快し右室圧も一旦は低下した.前医で測定された血清VB1低値を確認しVB1補充を継続したが,右室圧は再度上昇した.全身麻酔下,吸入酸素濃度100%で施行した心臓カテーテル検査では,肺動脈圧98/64(77)mmHg,肺体血圧比1.24,肺血管抵抗値RpI 22.62 WU・m2と重度PHを認めた.NO(20ppm)負荷によりRpI 3.57 WU・m2に低下し良好な反応性を示す一方,検査後開始したタダラフィル内服では効果不十分であった.その後血清VC低値が判明し,壊血病(VC欠乏)症状も顕在化したためVC投与したところ,PHは速やかに改善した.【考察】一酸化窒素合成酵素(NOS)がNOを産生する際,テトラヒドロビオプテリン(BH4)が必要であるが,NO産生後BH4は酸化され失活する.酸化されたBH4の還元にはVCが必須である.また,通常低酸素により活性化されるHIF(hypoxia-inducible family)は肺血管収縮を惹起するが, VCおよび鉄欠乏状態では非低酸素下でもHIFが活性化し肺血管収縮を引き起こす.VC欠乏は鉄吸収を阻害する.本症例では血清鉄も低値であり, VCおよび鉄欠乏がPHの原因として考えられた.