[II-P49-04] 完全大血管転位症の短絡に関する血行動態シミュレーション
キーワード:大血管転位症, シャント, シミュレーション
【背景】完全大血管転位症(TGA)は体循環と肺循環が並列であるため、両循環の血液の混合が必要である。血液の混合は複数の短絡で行われるが、循環の複雑さのため短絡の評価は簡単ではない。【目的】TGA循環のコンピューターシミュレーションにより短絡条件や血中ヘモグロビン値(Hb)を変更し、各短絡の果たす酸素化への影響を検討する。【方法】3要素Windkesselモデルと心室の時変エラスタンスモデルを組み合わせ、TGA循環モデルを構築した。短絡条件を変え、各部位での血流量及び酸素飽和度を計算した。48の循環動態(心房中隔欠損(ASD)・心室中隔欠損(VSD)は大、中、小、閉鎖の4段階、動脈管(PDA)は中、小、閉鎖の3段階)のうち、Hb=18の条件で体循環の酸素飽和度(SaO2)が70%以上である32の循環モデルでSaO2の値を予測・検討した。また、病的状態として貧血(Hb=12)の条件を再現しSaO2の変化を評価した。【結果】SaO2と各短絡のコンダクタンスのピアソンの相関係数を求めたところ、ASD 0.70、VSD 0.08、PDA 0.14とSaO2はASDと強い正の相関を認めた。心係数(CI)、体循環の酸素運搬能(DaO2=CI×SaO2)と各短絡のコンダクタンスの相関係数を求めた。CIはASD -0.20、VSD -0.32、PDA -0.46といずれの短絡とも負の相関を認めたが、DaO2はASD 0.74、VSD -0.15、PDA -0.17とASDのみが正の相関を示した。Hb=12として32の循環モデルを再現したところ、15のモデルでSaO2<70%となった。特にASDが中以上の径がない条件で酸素化を保つ循環は認めなかった。一方でASDが大の場合、他の条件に関わらずSaO2が70%以上を保った。【考察】TGA循環においてASDによるmixingのみがDaO2に対して唯一有利に働くことが示された。従って、組織への酸素供給の観点からはVSDやPDAに依存した循環に比してASDが主となる循環の方が望ましいと考えられた。ASDの酸素化への寄与を反映し、充分なASDの開存があればHb値によらず酸素化が保たれることも示された。