[II-P54-03] 長時間作用型methylphenidate大量服用後に一過性QT延長を認めた1例
Keywords:methylphenidate中毒, QT延長, ADHD
【はじめに】長時間作用型methylphenidate(MPH;コンサータ<SUP>®</SUP>)は注意欠陥/多動性障害(ADHD)の治療薬として最も汎用されている抗精神病薬である。シナプス間隙のドパミンやノルアドレナリンのreuptakeを抑制して、中枢神経と同時に交感神経刺激作用を有するとされるが、治療量における心血管系への影響は少ないとされている。今回我々は、自殺企図でMPHを大量服用後に頻脈、血圧上昇及び心電図上一過性のQT延長を認めた症例を経験した。ADHDの薬物治療管理において示唆に富む貴重な症例と考えられたので報告する。【症例】12歳、男子。学校心電図検診で異常を指摘されたことはなく、本人や家族に失神の既往はなかった。他施設でADHDの診断のもとMPH36mg/日(0.83mg/kg/日)を服用中であった。今回、母親と口論の末の自殺企図で、MPH216mg(5mg/kg)服用後3時間を経て当院救急外来を受診。受診時異様な興奮状態で、多動、多弁であった。頻脈(100/分)と血圧上昇(151/82mmHg)を認めた。心電図では軽度の左軸偏位とQTc(B)0.50s、QTc(F)0.45sとQT延長を認めた。MPH中毒の診断で入院し、心臓モニタリングを開始した。重篤な不整脈の発症はなく、入院翌日には興奮状態は消失し、バイタルサイン及びQTc(B)、QTc(F)ともに0.42sと正常化した。【考察】本症例のQT延長の詳細な機序は不明だが、文献上健常人に対するepinephrineやisoproterenol負荷でQT延長やU波増高が誘発され、T波と増高したU波の融合がQT延長に関与するとの報告がある。本症例の入院時心電図でも、T波はやや変形した幅広い形態を呈しており、上記報告の可能性が示唆された。【結語】近年、AHAからも、sudden deathを来すHCMやQT延長症候群等を合併するADHD患者において、MPH投与前後の心評価とモニタリングが推奨されている。心電図は最も簡便に重要な心血管情報を提供し得るツールであり、MPHを投与する際には心電図の定期的な評価が望ましい。