[II-P64-03] 小児特発性拡張型心筋症に対する肺動脈絞扼術は新たな治療戦略となり得るか?症例を経験して
キーワード:特発性拡張型心筋症, 肺動脈絞扼術, 心移植
【はじめに】 内科的な治療で改善しない重症拡張型心筋症(DCM)では,心臓移植を検討する.しかし,10歳未満移植待機者に対する国内移植は年間1-4例と少なく,自心機能で移植まで待機できない時は小児用補助人工心臓(VAD)を要する.VADの台数は国内では限られ,地理的な偏在もあり,導入による患者・家族の負担は大きい.近年,同疾患に対する肺動脈絞扼術(PAB)で心機能が回復し,心臓移植やVADを回避したという報告がある.本邦における同治療法の報告はなく,当院での経験が本邦1例目と考えられ,考察とともに報告する.【症例】1歳男児.月齢3でDCMと診断.内科的な心不全治療への反応がみられず経時的に心不全が悪化し,月齢7でPABを受けた.手術に関連して一時的な血圧低下を招いたことによる絞扼部の再調整を要する場面はあったが,特記すべき手術合併症は認めなかった.術後4日に抜管し,術後11日目に一般病棟に転棟した.術後BNPは低下(術前2800pg/mL/術後1000~1300pg/mL), 左室拡張末期径も改善(術前 56.9 mm/術後51.3 mm)し, 肺高血圧の改善が得られた.PDE3阻害薬や利尿剤の減量を進めることができ,臨床的にも心不全の影響で停止していた精神運動発達が再開するなどの変化も得られた.しかし,重度僧帽弁閉鎖不全は残存し,左室駆出率(LVEF)の改善は得られず(術前 16.4%/術後 20.5%),術後9ヶ月の現時点でPDE3阻害剤からの離脱には至っていない.今後, 体重増加による右心室系の後負荷増強及び経時的な変化による右心機能低下も懸念される.【考察】小児重症DCMに対して安全にPABを行うことができ,一定の効果を得た.本治療の課題は,適応の判断,モニタリングや適切な絞扼径の判断を含めた安全な手術手技の確立に加え,心機能が改善しない症例に対する長期的な管理が明らかでない点である.当面は周術期の変化に対応ができる小児用VADのバックアップがある施設で症例を蓄積することが望ましい.