[III-P73-02] 中心静脈圧の低いFontan術後蛋白漏出性胃腸症に対する治療戦略
Keywords:Fontan, PLE, hemodynamics
【背景】Fontan術後の蛋白漏出性胃腸症(PLE)は予後を決定する重要な合併症であり、静脈うっ血や炎症の関連が疑われている。一方、低い中心静脈圧(CVP)でも発症することがあり、そのメカニズムの解明は重要な課題である。【症例】左心低形成症候群に対するFontan術後1歳男児。日齢6にNorwood変法を行い、4ヶ月時に両方向性Glenn手術を経て開窓型Fontan手術を施行した。術後早期からCVP乱高下と開窓閉塞を認め、利尿が困難であった。超音波検査で肺動脈狭窄を疑い、術後1ヶ月で経皮的肺動脈拡張術および側副血管コイル塞栓術を施行した。CVP 13mmHg、Rp 0.7単位であり、拡張末期圧は8mmHgから腹部圧迫によって20mmHg以上に上昇した。術後2ヶ月程で誘引なく全身性浮腫・低蛋白血症を認め、蛋白漏出シンチでPLEと診断した。高容量利尿薬を使用してPLEを緩解させたのちカテーテル検査中に腹部圧迫をしたところCVP-RVEDP圧較差は4mmHgから1mmHgと著明に低下し高度拡張機能障害が示唆された。循環血液量は64ml/kgに比して平均循環充満圧40mmHgと高値であり、高度の静脈コンプライアンス低下が示された。この所見は造影後にCVPが3mmHg以上上昇したことからも証明され、Fontan経路の狭窄解除と開窓作成・静脈系積極拡張を行う方針とした。開窓は術後数日で自然閉鎖したが、現在半年以上PLE緩解を維持している。【結論】安静時低CVPであっても、心血管コンプライアンス低下を特徴とする硬い生体システムがPLE発症の原因となる。このような症例は容量負荷で心室拡張気圧が容易に上昇し、開窓機能も損なわれる。従って安静時CVPが低くても静脈うっ血に関連した末梢臓器障害を発症するが、肺血管拡張薬の役割は限定的であり、静脈プールの拡大と緻密な水分管理が末梢臓器障害予防の鍵となる。