[I-AS01] 心臓発生について考えながら描く臨床解剖図――臨床に役立つメディカルイラストレーションをめざして――
キーワード:メディカルイラストレーション, 心臓解剖図, 心臓発生学
【背景と目的】心臓の解剖学と発生学は互いに相補的な関係にあり、心臓の構造を正しく描くためには単に実物を観察するだけではなく、心臓発生過程の図と対比させて考えることが肝要である。一方で、右心系の解剖図を例にとると、成人の右房内腔の構造には胎児循環と密接な関連があり、これらの構築を詳細に描写することによって、胎生期の血行動態の奥深さを実感できるのである。正常心臓解剖の理解と描図を難しくしているのは、筋性および膜性中隔・室上稜・漏斗部(円錐部)中隔・両大血管の間に存在する複雑な長軸方向に対するねじれ構造であり、その正しい把握のために、心内膜床の役割をあらためて確認し、各々の組織の起源となる発生学的構造物を認識しながら正しく描図する方法を検討した。【対象と方法】対象は佐賀大学医学部肉眼解剖学実習に用いた御遺体※1の心臓標本。自在にアームが曲がる直径6mmのLEDライトで各部を透見・観察した上で、『MOORE人体発生学』、Netter『The CIBA Collection5心臓編』、高尾篤良編『臨床発達心臓病学』などを基にした発生過程の図と対比させることにより解剖図を制作した。主にボールペン(0.5~0.7mm)で描画し、着色は水彩、必要に応じて“Netter配色※2”を施した。【結果・考察】Kochの三角が三次元的に表現され、膜性中隔の構造と両房室弁の間の段差について理解できる図を描くと、刺激伝導系の立体的な把握が可能となる。発生の過程で大動脈側の円錐部が吸収され短縮し、両房室弁の間に大動脈弁が楔入し、右室流出路がらせん状に大動脈基部を廻ってゆくことなどをすべて包含し、かつ細部に矛盾が生じないように描くことにより、心臓の立体構造を有機的に理解できるような図が完成する。(※1あらかじめ献体申込書にて献体者直筆の署名ならびにご遺族の承諾書が得られている場合に限る)(※2 F. H. Netterの解剖図等において統一されている発生学的起源の色別をいう)