[I-OEP03-2] 著明な肺高血圧を合併し発症後早期に診断し得たミトコンドリア心筋症の1例
キーワード:ミトコンドリア, 心筋症, 肺高血圧
【背景】ミトコンドリア病は多彩な臨床像を呈する。今回、突然の代謝性アシドーシス、肺高血圧、循環不全を伴って発症し、BOLA3遺伝子変異を同定し、早期に診断し得た1例を報告する。【症例】日齢27、女児。満期に正常分娩で出生し、これまで異常はなかった。活気不良、哺乳不良を認め、全身蒼白となり、救急搬送された。入院時、高度の高乳酸性代謝性アシドーシス、左室壁運動低下、肺高血圧、DIC、肝機能障害を認め、ミトコンドリア病疑いとして全身管理を開始した。人工呼吸管理、カテコラミン投与、NO吸入療法、エポプロステノール持続投与、重炭酸投与、ビタミン投与を開始した。代謝性アシドーシスの改善が認められず、血液浄化療法を1日行い改善した。また、肺高血圧や循環不全も一旦軽快した。ミトコンドリア病を疑う臨床所見に加え、重度の肺高血圧を伴っており、既報をもとに遺伝子解析を行ったところ、第13病日にBOLA3遺伝子変異(c.287A>G, p.His96R)が同定され、確定診断された。その後、慢性心不全管理を行なったが、徐々に左室後壁に程度の強い全周性の左室壁肥厚と心機能低下、心嚢液貯留を認めた。致死率が高い遺伝子異常であることもご家族に説明した上で、緩和ケアを行いながら第37病日に永眠した。【考察】ミトコンドリア異常に肺高血圧を伴うことは比較的稀である。BOLA3遺伝子は鉄-硫黄タンパク合成系に関与する核遺伝子の一つであり、ミトコンドリア内の代謝経路の多くの酵素に作用する。BOLA3遺伝子異常では、低酸素時の肺血管内皮機能低下をきたすことが知られている。本症例の剖検所見では肺動脈壁中膜肥厚は認めたが内膜増殖はなく、発症時の著明な肺高血圧は低酸素に伴う機能的異常も関与しているものと考えられた。ミトコンドリア病を疑う症例に肺高血圧を合併した場合、本遺伝子変異も念頭においた検索が必要である。