[I-S04-5] 心房特異的Pitx2c過剰発現は洞結節の機能を低下させる
Keywords:Pitx2c, 洞結節, 不整脈
背景:洞結節は心機能の維持にとって必須であり、特殊心筋細胞群からなる。しかし、洞結節形成の分子機序については不明な点が多く残されている。左房に強く発現し心臓の左右軸を決定するために重要な転写因子であるPitx2cのノックアウトマウスでは、洞結節の機能が抑制され、左房に異所性ペースメーカー様の細胞群が出現する。このことは、Pitx2cには固有心筋がペースメーカー細胞へ分化するのを抑制する働きがあることが示唆する。目的:右房へのPitx2c過剰発現は洞結節の機能を低下させる、という仮説を検証する。方法:心房特異的に発現するサルコリピン遺伝子の内因性遺伝子座にCre遺伝子を発現させたマウスと、CAGプロモーターを用いてloxP配列の間にPitx2c遺伝子を導入したマウスの2種類のマウスを交配させ、心房特異的にPitx2cが過剰発現したマウスを作成した。その後、作成したPitx2cflox/cre+マウス(過剰発現群: OE)とPitx2cflox/cre-マウス(コントロール群: CON)、Pitx2cflox-/cre-マウス(野生型群: WT)の表現型を調べた。結果:OE群はCON群、WT群に比べ、右房におけるPitx2の発現が高かった。組織重量や心エコー検査では各群に有意な違いを認めなかった (n=7-11, n=9-10)。経静脈心内ペーシング検査では、OE群はCON群、WT群に比べ洞結節回復時間の延長を認めた(n=3-5)。植込み型テレメトリー心電図検査では、OE群ではCON群、WT群の比べ、最小心拍数、最大心拍数、平均心拍数、総心拍数に差を認めなかったものの、心拍数のばらつきが有意に拡大した (n=5-10)。さらに、OE群では異所性心房調律や洞停止、接合部の補充収縮の所見を認めた。結語:心房特異的なPitx2cの過剰発現は、洞結節の機能を低下させ、心拍数ばらつきを増加させた。本研究は、洞結節が右房側で正常に分化し、機能を維持するためには、発生段階の右房においてPitx2cの適切な発現抑制が必要であることを示唆する。