The 56th Annual Meeting of Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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シンポジウム

分子医学・再生医療・心臓血管発生

シンポジウム04(I-S04)
分子医学・再生医療・心臓血管発生「先天性心疾患の理解・治療・予防につなげる臨床心臓発生学」

Sun. Nov 22, 2020 8:00 AM - 10:00 AM Track7

座長:横山 詩子(東京医科大学 細胞生理学分野)
座長:古道 一樹(慶應義塾大学医学部 小児科)
座長:山岸 敬幸(慶應義塾大学医学部 小児科)※I-S04-1基調講演担当

[I-S04-7] ABL1変異は先天性心疾患を伴う症候群の原因となる~エクソーム解析と質量分析法を応用した遺伝性心室中隔欠損症の網羅的病態解明~

山本 英範1, 早野 聡1,2, 奥野 友介3, 小野田 淳人4, 加藤 耕治5, 長井 典子6, 深澤 佳絵1, 齋藤 伸治5, 高橋 義行1, 加藤 太一1 (1.名古屋大学大学院医学系研究科 小児科学, 2.中東遠総合医療センター 小児科, 3.名古屋大学医学部附属病院 先端医療臨床研究支援センター, 4.名古屋大学医学部附属病院 総合周産期母子医療センター 新生児部門, 5.名古屋市立大学大学院医学系研究科 新生児・小児医学分野, 6.岡崎市民病院 小児科)

Keywords:エクソーム解析, プロテオーム解析, 遺伝性心疾患

【緒言・目的】常染色体優性遺伝形式の心室中隔欠損症(VSD)の家系において、エクソーム解析を用いてABL1を原因遺伝子と特定した。さらに質量分析法を用いて遺伝子変異と表現型との関連についての網羅的検討を行ったので報告する。
【方法】3世代にわたるVSD家系の全員(本人または保護者)から書面で同意を取得後、エクソーム解析により候補遺伝子を絞った。HEK293細胞に野生型・変異型候補遺伝子を導入して強制発現実験を行いウエスタンブロット(WB)法で評価した。さらに質量分析法によるプロテオーム解析を行い、測定された蛋白のMedical subject headings(MeSH) termを用いて表現型との関連を検討した。
【結果】家系内のVSD患者は高率に指関節拘縮やtranslucent skinを合併しており、VSDと同一の遺伝子変異に由来する可能性が示唆された。エクソーム解析ではABL1(NM_007313)のチロシンキナーゼドメイン内に新規変異(c.1522A>C,p.I508L)を認め、家系の全員で遺伝子型と表現型が合致した。強制発現実験のWB法では、Abl1およびその下流のSTAT5におけるチロシンのリン酸化亢進が確認され、機能獲得型変異であることが示された。さらにリン酸化プロテオーム解析を行い、表現型に強く関連するMeSH term(Congenital heart defects, Congenital limb deformities, hypopigmentation)を付与された蛋白を抽出したところ、表現型の原因となりうる蛋白Xおよび蛋白Yのリン酸化が統計学的有意に亢進していることが確認された。
【考察】ABL1は骨髄細胞でBCRと融合遺伝子を形成することで慢性骨髄性白血病の原因となることが知られているが、生殖細胞における機能獲得型変異で先天性心疾患などの原因となることが2017年に初めて報告された。既報は2報のみであり、またABL1変異と表現型の関連については充分に証明されていない。我々の同定した変異は新規変異であり、さらに本報告は表現型との関連を示す初めての報告である。