第56回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

特別講演

特別講演02(II-SL02)

2020年11月23日(月) 13:50 〜 14:20 Track1

座長:山岸 正明(京都府立医科大学小児医療センター 小児心臓血管外科)

[II-SL02-1] 生活文化としての茶の湯

堀内 宗完 (堀内長生庵)

日本における伝統文化の踏襲媒体として、能や歌舞伎など芸術の範疇に含まれる媒体が数多ありますが、「茶の湯」は少し趣を異にするものであります。単に芸術表現というより、生活文化そのものであります。
成立初期の茶の湯は、社会的に地位を得た、武士や商人などの階層がそれぞれの環境・地位を越えて交流する誇り高き場でありました。立場が異なるゆえ、価値がある集団であり、文化活動の媒体でありました。もちろん一碗の茶を喫するためではありますが、その環境であります庭園や茶室をしつらえ、茶をもてなす前提として最大限に配慮をした料理と酒を振る舞いました。その場で用いられる茶に使われる道具類は共通の関心事であり共通の話題でもありました。茶室も畳二畳程度を標準として、つつましいというより、本当に気心の知れた二・三人のみが同席を許されるサロンでありました。正に飲食喫茶は日常のもてなしの一環であり、そこに茶の湯が日常生活の延長であるいう意味があります。茶の湯を職とする者はその補佐にあたるしもべ的な立場にありました。明治維新以降その主君を失って新しく求めた対象が女学校教育であります。お陰で対象が飛躍的に増加し今日隆盛の礎となりました。補佐的な立場から、指導者立場の逆転はその本質へも変化をもたらしました。今日、茶の湯と云えば十数人が一同に会して、水屋で用意した菓子と薄茶のみを一斉にはこび出し呑むという大寄せ茶会でありますが、歴史のあるものではありません。マスを処理する便法ではあり、本来の心の通う茶の湯ではありません。
コロナウイルス禍の現今、その習慣その物が疑問視されますが、過去の衛生的にも十分ではなかった時代の生活習慣は、用具の清次を明確に識別して、一般な疫病等には十分に対応できるものでありました。毒をももちいる時代でありましたから、茶を用意する過程にも別段の配慮し、客前で茶を点てるのもその証でありました。
「茶の湯」は、日本の伝統を伝承する種々の媒体にあって、唯一、日常の生活を起点としております。それ故、日本の文化を末永く忠実に伝えていく貴重な媒体であります。

1943年京都府生まれ。
1965年京都大学理学部化学科卒業、無機化学専攻
その後同研究において4年間、分子線法による科学反応の素過程の研究に従事
1996年堀内長生庵13代当主
著書 『茶の湯の科学入門』(淡交社)茶道文化学術奨励賞受賞ほか
役職 一般社団法人表千家同門会理事