The 56th Annual Meeting of Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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高尾賞受賞講演

高尾賞受賞講演(II-TAL)

Mon. Nov 23, 2020 9:30 AM - 10:00 AM Track1

座長:坂本 喜三郎(静岡県立こども病院)

[II-TAL] 地方の症例からの小児循環研究の取り組み:コロナ危機の2020年、小児血管医学研究の30年目に思う

三谷 義英 (三重大学医学部附属病院周産母子センター)

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 私は、研修医時代の経験から、肺高血圧 (PH)、川崎病 (KD)冠後遺症など小児血管医学を専門として、研究に取り組んで来ました。また、症例を契機に、血管医学に関連した他の領域にも関わって来ました。本講演では、それらの基礎的、臨床的、社会医学的研究の成績、人材育成、社会活動と今後の展望を報告します。
 私が小児循環器研修中の1990年頃から、自験例を通じて先天性心疾患 (CHD)の予後因子でありながら有効な治療法が無かったPHと後天性心疾患で最多ながら長期予後が不明なKD冠後遺症が重要なテーマと考えて来ました。大学で研究の機会を得た1992年頃から、黎明期であった血管生物学の病態解明・臨床への応用に取り組み、1997-99年にはトロント小児病院への留学の機会(Rabinovitch教授、PH)も得ました。基礎研究では、内皮障害、炎症とプロテアーゼのシグナル伝達・転写調節について動物モデル、培養細胞、患者検体を用いて検討し、現在のPH治療薬の基礎となる病態の一端を見出しました(Mitani Y. Circulation 1997, Mitani Y. FASEB J 2000, Sawada H. Chest 2007, Sawada H. J Exp Med 2014)。最近の基礎研究で、BMPR2系のChip-Seq解析 (Morikawa M. Sci Signal 2019)、In Silico解析による治療標的の同定 (Nishimura Y. Front Pharmacol 2017)、新規動物モデルの病態研究 (Otsuki S. PLoS One 2015, Shinohara T. Am J Physiol 2015, Kato T. Pulm Circ 2020)とBarker仮説 (成人疾患の周産期起源説)に関わる動物モデル・培養細胞系の確立とエピゲノム解析 (Oshita H. AHA 2019)、ゲノム編集の応用が、新規治療法開発に繋がり得ると期待し、研究が進行中です。臨床研究で、CHDの肺循環評価へのAI応用 (Toba S. JAMA Cardiol 2020)、社会医学研究で、全国調査によるPH早期診断上の学校心電図検診の役割の実証 (Sawada H. Am J Respir Crit Care Med 2019)など、新しい方向性を見出しました。人材育成では、研究者の育成(YIA受賞:AHA2回、AEPC1回、本学会2回)、研修医の教育(症例報告(Imaging):Kamada N. Circulation 2008, Sugino N. Circulation 2010)に関わりました。KD冠後遺症において、冠血管機能構造異常の報告により成人期の課題を提起し(Mitani Y. Circulation 1997, Mitani Y. Circulation 2005, Mitani Y. Circulation 2009)、最近の全国調査によりKD既往成人の急性冠症候群の実態解明 (Mitani Y. Richard Lowe 記念講演2018)、ガイドライン作成に繋がりました。現在、KD既往成人の難治性疾患実用化研究事業 (AMED, 2020-22年度)の研究班を編成し、画像診断、JROAD-DPC、遠隔予後、病理、カテ治療成績、外科成績の研究等の新規のエビデンス創出に取り組んでいます。
 血管医学に関連した他の領域では、2000年台初頭に予後が未だ不良であり、動脈管の血管生物学の関連する左心低形成症候群への両側肺動脈絞扼術の4自験例(Mitani Y. AHA2005, Mitani Y. JTCVS 2007)を報告しました。以後、自施設のCHD診療と関連し、ASD・PFO・PDA閉鎖栓治療の術者、成人CHD総合修練施設指導責任者として多施設共同研究、厚労班研究、移行医療の指針策定と政策提言、普及啓発、基本計画への提案に関わっています。肺循環の関連する心肺蘇生領域で、黎明期であった2008年にAED蘇生の症例を初めて経験しました。その後、全国調査、Utsteinデータ解析による心臓性突然死の実態解明 (Mitani Y. Europace 2013) に関わり、学会の登録事業、学校検診・救急ガイドラインの作成、政策提言、学校への普及啓発、AIを応用した実装に取り組んでいます。
 自らを振り返り、1990, 2000, 2010年は、10年毎に研究の節目でした。2020年現在、コロナ危機に直面し、医学研究、医療政策、学会活動においても、Digital Transformation(DX)の流れが、前倒し加速されると考えています。従来のWet (実臨床、動物実験、調査研究)へのDry (Big Data, AI)の融合が重要との考えを再認識しながら、今後の活動に臨みたいと考えます。
 最後に、苦労を共にして来た若手の先生の将来を祈願すると共に、ご指導を賜りました先輩諸氏、ご協力を頂きました全国の先生方に深謝致します。