[III-OEP11-3] 先天性心疾患における新しい慢性循環不全ターゲットとしての内因性ナトリウム利尿ペプチド
キーワード:先天性心疾患, フォンタン, 心不全
背景:ナトリウム利尿ペプチド (NP)は心不全管理の生体指標として用いられているが、心血管系再構築・線維化等の心不全増悪因子に対抗する生体代償反応でもある。これを利用した薬剤がLCZ696であり、RAAS系阻害とともにネプリライシン (NEP)を阻害し、内因性NPの代謝を抑制して心不全に伴う相対的NP不足を補う。BNPが全身のNEP及び腎臓で代謝されるのに対し、BNP前駆蛋白から分離されるNT-proBNPは腎臓でのみ代謝されることからNT-proBNP/BNP比(BNPR)はNEP活性を反映すると考えられ、実際PARADIGM-HF試験ではBNP上昇が認められている。これを利用して先天性心疾患においてNEP阻害が有用となりうるかを検討した。方法:心臓カテーテル検査の際に採取したBNPRと各種生体データとの関連を解析した。結果:フォンタン症例(N=70)ではBNP (p=0.003)、NT-proBNP (p=0.008)とも低値を示したが、BNPRは非フォンタン症例 (N=55)と同様であった(p=0.56)。BNPRは年齢と負の相関(p<0.001)、Qsと正相関を示し(p=0.012)、若年かつ心拍出量が高いほどNEP活性が高いと考えられた。体血管抵抗は非フォンタン(p=0.0021)、フォンタン症例(p=0.0065)共にBNPRと負相関を示し、BNPがNT-pro BNPと比較して低いほど後負荷増強を認めた。フォンタン症例ではBNPRは血清ヒアルロン酸 (p=0.0088)、III型プロコラーゲン (p=0.0056)、IV型コラーゲン (p=0.053)、IV型コラーゲン7s(p=0.0057)と正相関を示し、NEP抑制によるNP活性促進が線維化抑制に寄与する可能性が示唆された。結論:1995年以降本邦ではナトリウム利尿ペプチド製剤としてCarperitideが使用可能であるが急性期循環不全に対する治療に限定される。本検討から、先天性心疾患、特にフォンタン循環における心血管系リモデリング予防にナトリウム利尿ペプチドは重要な役割を果たす可能性が示唆され、ネプリライシン阻害作用を持つLCZ696のフォンタン不全予防における役割が期待される。