優秀演題12（III-OEP12）
移行の実際ー移行はどのように行われ始めているかー

[III-OEP12-2] ファロー四徴症遠隔期の右心容量負荷に伴う左心機能障害

^○安川 峻, 市川 肇, 小森 元貴, 海老島 宏典, 今井 健太, 島田 勝利, 帆足 孝也 (国立循環器病研究センター 小児心臓外科)

Keywords:ファロー四徴症, 肺動脈弁閉鎖不全症, 左心機能

【背景・目的】ファロー四徴症(TOF)根治術後の肺動脈弁閉鎖不全症(PR)がきたす容量負荷は右心系拡大のみならず左心拡張機能に影響を及ぼすことが知られている．本研究では，TOF根治術後のPRに対して肺動脈弁置換術(PVR)を施行した症例の左心機能について検討した．
【対象・方法】2006年4月から2018年12月にPVRを施行した23例を対象とし，術前の左室心拍出係数LVSVI (ml/beat/m²)＜40の13症例(L群)と，LVSVI ＞40の10症例(U群)の2群にわけて比較検討した．評価項目は術前および術後1年の心臓MRI検査，運動耐容能検査およびBNP値とした．連続変数は中央値[四分位範囲]で表した．
【結果】TOF根治術時年齢は3.3 [1.8-6.7]歳，PVR時年齢は38.9 [28.4-46.0]歳，根治術からPVRまでの期間は32.4 [25.8-37.8]年であった．入院死亡はなく，1例を遠隔期に交通外傷で失った．術前の心臓MRI検査において，LVSVIはL群で35.2 [31.9-37.9]，U群で46.3 [42.5-49.3]であった(p＜0.001)．RVEDVI (ml/m²)はL群で206 [195-257]，U群で214 [182-253]と有意な差は認めなかったが(p= 0.71)，LVEDVI (ml/m²)はL群で71.7 [68.9-73.0]，U群で92.2 [83.6-96.8]とL群で有意に低かった(p= 0.001)．術後は，LVEDVIはL群で80.8 [77.1-86.8]，U群で80.4 [75.3-90.3] (p= 0.97)，LVSVIはL群で42.6 [36.0-46.4]，U群で42.5 [40.4-43.8] (p= 0.69)といずれも有意な差がなかった．しかし術後の運動耐容能検査では，peak VO₂ (ml/min/kg)がL群で23.3 [20.9-26.7]，U群で28.9 [26.7-31.6]と有意にL群で不良で(p= 0.04)，さらにBNP値(pg/ml)はL群で32.6 [27.4-56.5]，U群で14.3 [10.3-18.8]と有意にL群で高かった(p= 0.007)．
【結論】PVR術前にLVSVIの低下を伴う場合，術後にLVSVIは改善し得るが，術後の運動耐用能は低く，BNP値も高値であった．右心容量負荷による左心機能障害は不可逆的な心機能不全をもたらす可能性が示唆された．