[III-PD08-5] 肺循環不全とPAVF関連Fontan循環破綻
キーワード:Fontan, 肺内シャント, 肺循環
肺循環はFontan循環の特性を規定する最大要因であり、その上流である体静脈にはうっ血を、下流には低心拍出を招来する。Fontan循環の破綻はこの非生理機構を代償する各器官の破綻である。一態様である肺内シャントは、Glenn循環や下大静脈-肝静脈の還流不均衡なFontan循環に好発し、小児では肝静脈血流を肺循環に組み込むことで改善する。しかし、Fontan術後中遠隔期に不可逆的な重度低酸素血症を惹起する肺内シャントは肝静脈血流入にもかかわらず進行し、また、成人Fontan症例では肝静脈還流不均衡を是正しても改善しないとの報告もある。現在までの知見から少なくともGlenn循環において肺内シャント発症に肝臓が関与していることは確定的で、FALDが経年進行するFontan循環においても関与が疑われる。他方、肝臓が関与する肺循環疾患として肝肺症候群(HPS)、門脈肺高血圧(PoPH)が知られている。前者は肝疾患、低酸素血症(AaDO2開大)、肺内血管拡張(≒肺内シャント)三者の存在を診断基準とし、後者は肝疾患の有無にかかわらず門脈圧亢進に伴う肺高血圧症を指す。これらの臨床像はFontan循環と重なる部分も多い。HPSではNOS発現亢進に伴う肺毛細血管拡張とVEGFを介した血管新生が主病因と目され、PoPHでは肝由来物質による肺血管収縮および内膜・中膜の増生が病因と疑われている。Fontan術後剖検例の肺血管に認められる中膜菲薄化と内膜増生は非拍動流による内皮機能障害パターンと捉えられており、HPS, PoPHの病態とは乖離して見えるが、Failing FontanではNOSやET1,ETRの過剰発現が示されており、根底に同様の発症要因を包含する可能性も否定はできない。びまん性肺内シャントは経年的に進展し低酸素血症からFontan術後予後を増悪させることが示唆されている。さまざまな病因候補を念頭に置いた知見の集積から有効な予防・治療に結びつける努力が必須である。