[III-S08-3] 新しい薬-LCZ696と小児治験
キーワード:心不全, LCZ696, 小児治験
【背景】LCZ696(本剤)は,ナトリウム利尿ペプチドを分解するネプリライシンの阻害薬およびアンジオテンシンII受容体拮抗薬のバルサルタンが結合した1分子化合物である.成人では,左室駆出率が低下した慢性心不全患者を対象とした臨床試験で,エナラプリルを上回る効果が検証された.海外に続いて日本でも成人の保険適用を申請し本年6月に取得した.このような情勢を踏まえ,小児の慢性心不全に対する本剤の国際共同治験が計画された.日本では小児循環器学会と契約を締結し,臨床試験委員会とプロジェクトチームが支援している.【方法】日本は,本剤の安全性や薬物動態を評価するパート1ではなく,有効性と安全性をエナラプリルと比較し優越性を検討するパート2から参加した.試験デザインは,多施設共同二重盲検ランダム化実薬対照比較試験である.対象は,生後1ヵ月~18歳未満の体心室左室を有する二心室の患者で,左室収縮機能障害(駆出率45%以下または内径短縮率22.5%以下)による心機能分類(NYHA/Rossスコア)がII~IV度の慢性心不全を有する患者である.目標用量として本剤3.1mg/kg,1日2回投与,又はエナラプリル(対照薬)0.2mg/kg,1日2回投与までそれぞれ漸増し,52週間投与する.主要評価項目は,死亡,心臓移植待機リストへの登録,心不全の悪化,NYHA/Rossスコアの変動等に基づいた順位付け(global rank endpoint)である.【成績】2016年11月から症例登録が開始し,目標症例数(世界で360例)の達成を目指し登録中である(日本は10施設が参加).【結語】本剤の小児治験は,成人の保険適用取得前に開始し,学会と契約を締結して実施した.小児循環器領域では,エビデンスの乏しい適応外使用が安易に用いられているが,治験に積極的に参加するべきである.本剤は画期的な心不全治療薬であり,小児に対する国際的なデータを踏まえた適用取得が期待される.