第56回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

デジタルオーラル

染色体異常・遺伝子異常

デジタルオーラル(I)02(OR02)
染色体異常・遺伝子異常

指定討論者:前田 潤(東京都立小児総合医療センター 循環器科)
指定討論者:与田 仁志(東邦大学医療センター大森病院 新生児科)

[OR02-2] 乳児期早期に高度肺動脈性肺高血圧(PAH)を認め非典型的経過からNFU1遺伝子異常が判明した一男児例

桑名 都史絵, 池川 健, 水野 雄太, 杉山 隆朗, 河合 駿, 若宮 卓也, 小野 晋, 金 基成, 柳 貞光, 上田 秀明 (神奈川県立こども医療センター 循環器科)

キーワード:NFU1遺伝子, 肺高血圧, 高乳酸血症

【背景】NFU1遺伝子異常は、多発性ミトコンドリア機能障害症候群 (multiple mitochondrial dysfunctions syndrome: MMDS) の原因の一つであり、乳児期発症の重篤な常染色体劣性遺伝性疾患である。PAHを起こすとされているが、本邦での報告はほとんどない。今回我々は、NFU1 遺伝子異常により乳児期早期に高度PAHを認めた一例を経験したので報告する。【症例】男児。母体は23歳の初産で、家族歴に特記事項なし。妊娠41週3日に自然分娩で仮死なく出生し、出生体重は2900gであった。生後1か月頃から活気不良、哺乳不良を認め、近医に入院した。心不全、肺高血圧の診断で、第3病日に当院に転院した。転院時の経胸壁心臓超音波検査で高度PAHを認め、人工呼吸管理、一酸化窒素吸入、肺血管拡張療法を行った。第6病日に高乳酸血症を認め、循環不全と考え、第8病日まで体外式膜型人工心肺(ECMO)を要した。PAHの原因検索を進めたが、肺静脈狭窄や肺動脈塞栓症を含めた心疾患、肺疾患、門脈圧亢進症を含む肝疾患、門脈体循環シャント、血栓塞栓症は否定された。循環不全の改善にも関わらず、高乳酸血症の持続を認めた。血中アミノ酸分析でglycineの上昇、尿中有機酸分析で2-ketoglutarateの上昇を認め、NFU1遺伝子異常の可能性を疑った。TruSight One Sequencing PanelによるClinical Exome解析の結果、NFU1遺伝子異常が確定した。その後、肺出血・全身の浮腫が併発・増悪し、呼吸・循環を保つことが困難となり、第30病日に永眠した。後日結果が判明した両親のExome解析では、NFU1遺伝子に複合ヘテロ接合体変異を両親それぞれから検出した。【結論】乳幼児期のPAHに伴い、循環動態と矛盾する高乳酸血症を認める場合には、NFU1遺伝子異常などMMDSを考慮すべきである。本疾患は治療法のない致命的な疾患であり、遺伝子診断による早期診断が不可欠である。