第56回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

デジタルオーラル

肺循環・肺高血圧・呼吸器疾患

デジタルオーラル(I)21(OR21)
肺循環・肺高血圧・呼吸器疾患2

指定討論者:高月 晋一(東邦大学医療センター大森病院 小児科)
指定討論者:土井 庄三郎(国立病院機構 災害医療センター)

[OR21-4] iPS細胞を用いたダウン症患者における肺高血圧症メカニズムの解析

杉辺 英世1, 石田 秀和1, 水流 宏文1, 桂木 慎一1, 石井 良1, 成田 淳1, 石井 陽一郎2, 小垣 滋豊3, 北畠 康司1, 大薗 恵一1 (1.大阪大学大学院 医学系研究科 小児科学, 2.大阪母子医療センター, 3.大阪急性期・総合医療センター)

キーワード:肺高血圧症, ダウン症, iPS細胞

【背景】ダウン症候群は肺動脈性肺高血圧症(PAH)を合併しやすく、気道狭窄や肺低形成など呼吸器系合併症の影響が疑われてきた。一方で肺血管細胞の機能異常がPAHの進展に関与している可能性も報告されているが、3本の21番染色体を有する血管細胞がPAH発症に関わるメカニズムは解明されていない。【目的】ダウン症候群患者由来iPS細胞を、血管内皮細胞(EC)と平滑筋細胞(SMC)に分化誘導し、その細胞機能や網羅的遺伝子発現プロファイルを明らかにすることで、ダウン症候群におけるPAH発症メカニズムの解明および特異的な治療法の開発を目指す。【方法】iPS細胞は、正常核型対照(WT)を3サンプル、ダウン症候群(T21)を3サンプル、T21のうち1サンプルをcre/loxPを用いてダイソミーに修正したもの(cDi21)を1サンプル、を用いた。それらを既報に従いEC、SMCに分化させ、細胞機能(増殖能、アポトーシス、遊走能)、ミトコンドリア機能(ROS、ΔΨ)について評価した。また次世代シークエンサーによるRNA-seqを行い網羅的発現プロファイル解析を行った。【結果】RNA-seqを用いた主成分分析では、T21-ECの発現プロファイルはWT-ECのそれと明らかに異なっており、cDi21ではWTと類似の発現パターンに回復することが示された。また、T21-ECはアポトーシスしやすくΔΨが低電位でありミトコンドリア機能異常が示唆された。SMCのRNA-seq解析では、WT-SMCとT21-SMCの間で網羅的な発現プロファイルに大きな差はなかったものの、T21-SMCでは細胞増殖能の亢進がみられ、pathway解析ではcell proliferationやDNA duplicationに関わるシグナルの亢進が認められた。【結語】T21-ECはWT-ECと異なる発現プロファイルを示し、細胞機能にも異常が見られている。PAHの発症に関与するシグナル経路を今後同定していきたい。T21-SMCは細胞増殖が正常よりも亢進しており、これもPAHの発症に関与している可能性がある。