第56回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

デジタルオーラル

術後遠隔期・合併症・発達

デジタルオーラル(II)46(P46)
術後遠隔期・合併症・発達3

指定討論者:田中 敏克(兵庫県立こども病院 循環器内科)

[P46-3] Fontan術後遠隔期に肝細胞癌を発症した三尖弁閉鎖症の一剖検例

美野 陽一, 坂田 晋史, 上桝 仁志, 清水 敬太, 山崎 隼太郎 (鳥取大学 医学部 周産期・小児医学分野)

キーワード:Fontan術後, 遠隔期合併症, 肝細胞癌

【背景】近年、Fontan術後遠隔期合併症として肝線維化や肝硬変(LC)といった肝合併症が知られており、中でも肝細胞癌(HCC)への進展は危惧される。今回、Fontan術19年後にHCCを指摘された三尖弁閉鎖症(TA)の一剖検例を経験したので報告する。【症例】22歳男性。13q3 monosomy、TA(Ib)。2歳6ヶ月にFontan(RAA-PA anastomosis)、チアノーゼが残存するため5歳3ヶ月にfenestrated extracardiac TCPCが施行された。16歳頃より腹水が出現、19歳でLCを指摘、21歳で造影CTにて多発肝腫瘤を指摘されHCCと診断された。積極的治療を望まず、在宅酸素療法、利尿剤による管理で経過、22歳で肝不全のため永眠された。剖検時、両肺、気管支、肝、消化器、腎に高度のうっ血を認めた。TCPC route内に血栓は認めず、fenestrationは開存していた。肝は混合結節性LCを呈しており、肝全区域に白色結節が多発、最大で右葉の大部分を占拠していた。組織学的に白色結節はいずれも高~中分化型HCCで、分布は不規則で無秩序、構造は多彩で大索状型や細索状型を呈していた。LCは小葉中心部の線維化、中心静脈や門脈/中心静脈間や肝細胞周囲での架橋形成および門脈域の線維性拡大を認めた。肝の非腫瘍部は中心静脈域から門脈域まで広がる類洞の高度拡張および小葉中心性壊死が広範囲にみられ、虚血性肝炎の所見であった。肺動脈は肺門部から末梢まで拡張蛇行していたが、中膜の筋性肥厚や血栓形成は無く、肺高血圧を示唆する所見は認めなかった。【考察】Fontan循環下では、肝静脈圧亢進による肝類洞への圧負荷や門脈圧亢進に伴う相対的肝動脈血流量上昇による肝細胞障害が、肝類洞線維化の原因となると考えられている。低心拍出や低酸素は、肝細胞虚血による肝類洞線維化をさらに助長する可能性があり、慢性心不全や著明なチアノーゼが残存するFontan術後症例では肝合併症の早期進展を念頭に置いた管理が必要となる。