第56回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

デジタルオーラル

心血管発生・基礎研究

デジタルオーラル(II)64(P64)
心血管発生・基礎研究

指定討論者:廣野 恵一(富山大学医学部 小児科)

[P64-2] 出生前グルココルチコイド投与によるラット胎仔心臓のYAPの検討

中村 悠城1, 武半 優子1, 桜井 研三2, 松本 直樹1 (1.聖マリアンナ医科大学 薬理学, 2.聖マリアンナ医科大学 小児科学)

キーワード:YAP, 出生前グルココルチコイド, 胎児心筋細胞

Hippo-YAP経路は,組織における細胞増殖を制御し,また,幹細胞の維持,細胞の分化の制御にも関わると報告されている.転写コアクチベーターであるYAPはリン酸化されると細胞質で分解され細胞増殖を抑制するが,YAPがリン酸化されず核内へ移行すると細胞増殖を促進する.先天性心疾患患者や早産で出生した児は成人になると心不全発症率が高く,その要因の1つに胎児期の心筋細胞増殖能と関連があると報告されている.我々は以前より早産児モデルラットを用いて,出生前グルココルチコイド(GC)投与が胎仔の心筋細胞増殖を促進させることを報告してきた.そこで心筋細胞増殖のメカニズムを明らかにする目的で,我々は出生前GC投与によるラット胎仔心筋細胞のYAPの発現について検討した.Wister系妊娠ラット(8週齢)の妊娠17日,19日に2日間デキサメサゾン(DEX) 0.5,1.0,2.0 mg/kgを皮下投与し,19日,21日にそれぞれ帝王切開して胎仔の心臓を摘出した(胎仔群:胎齢19日(F19),胎齢21日(F21)).また妊娠20日, 21日に2日間DEXを同様の方法で皮下投与し,自然分娩で出生した日齢1日の新生仔の心臓を摘出した(新生仔群(N1)).対照群はDEX 溶媒のごま油を同量投与した(非投与群). YAPの蛋白質発現量はウエスタンブロット法で、細胞質と核内での局在は免疫組織染色で検討した.YAP蛋白質発現量は非投与群およびDEX投与群でいずれも有意な変化を認めなかった.非投与群における核内YAP陽性率は胎仔で増加し,新生仔で低下した.非投与群に比してDEX投与は核内YAP陽性率が有意に増加し,F21群ではDEX2.0 mg/kgで有意に増加した.一方, F19群およびN1群ではDEX0.5 mg/kgと1.0 mg/kgで有意に増加したが,2.0 mg/kgまで増量すると陽性率は非投与群と同水準であった.出生前GC投与により核内YAP陽性率が増加したことは,心筋細胞数の増加にYAPが関与して,出生後の心機能を変化させる可能性があると考えられた.