[I-SY03-3] 重症型拡張型心筋症の乳幼児期顕性心不全を軽減するための新しいAT1アンジオテンシン受容体の修飾法
キーワード:拡張型心筋症, 乳幼児期発症顕性心不全, 治療薬開発
【背景】重症型拡張型心筋症(DCM)は往々に乳幼児期に顕性心不全(IHF)を発症し、早期心移植を必要とする。補助循環装置の発展を考慮しても、これら患者のIHFを軽減し、安全な移植待機時間を延長できる新薬の開発が必要である。【目的】遺伝子改変マウスでの基礎研究を基に、新しいIHF治療法を考察すること。【方法】ヒト重症型DCMモデルマウス(cTnTΔK210 mouse)のホモ接合体(Homo)または野生型同腹仔(WT)に、AT1アンジオテンシン受容体(AT1R)の下流の2つの細胞内信号経路(G蛋白質+βアレスチン)の双方を抑制する「AT1R阻害薬(ARB)」、またはG蛋白質経路を抑制するがβアレスチン経路を刺激する「βアレスチンバイアスAT1Rアゴニスト(BBA)」を、生後0日(P0)から連日皮下投与した。【結果】Homoは離乳期(P20)までに、80%の個体が両心室不全により死亡した。ARBもBBAも心肥大を改善しなかったが、BBAのみが心機能低下の進行を遅らせ、臓器うっ血・哺乳量減少・体重増加不良・低アルブミン血症・低血糖を有意に改善し、離乳期までの死亡率を半減した。一方ARBは腎不全を生じ、離乳期までにWTでも60%の個体を死滅させた。これは腎葉間・輸入動脈の血管平滑筋細胞異常増殖による血管内腔狭窄、それに伴う糸球体血流量低下、さらに尿管蠕動能低下による髄質委縮によるものと思われた。【考察】BBAは、AT1R/βアレスチン経路を刺激して心機能低下を遅らせ、重症型DCM患者の安全な移植待機時間を延長できる可能がある。一方ARBはこの経路を抑制するので心機能を改善せず、さらに腎の子宮外環境適応を抑制する危険性があると思われた。【結論】BBAの生後早期からの継続的投与が重症型DCMのIHFを有効に軽減させる可能性があり、その創薬と臨床応用を急ぐ必要があると思われた。