[I-SY04-1] 【基調講演】ゲノム編集を用いた遺伝子改変マウス作製~最新の方法論と将来展望
キーワード:ゲノム編集, 疾患モデル, 点変異
CRISPR/Cas9ゲノム編集システムの登場により、遺伝子改変マウスの作製がコスト、労力、期間などの点において大きく改善した。CRISPR/Cas9システムでは標的配列を認識するガイドRNA(gRNA)と、DNAを切断するCAS9タンパク質が必要となる。以前は、gRNAとCas9を発現するプラスミドやmRNAを受精卵に顕微注入していたが、現在は、標的配列を認識するcrRNA、crRNAと一緒にgRNAを作るtracrRNA、CAS9タンパク質が市販されているので(標的毎にcrRNAだけデザインする)、それらを混合して受精卵にエレクトロポレーションにより導入するのが一般的である。侵襲性は顕微注入と同程度かむしろ低く、生まれたマウスの約半数かそれ以上の割合で標的配列が切断された遺伝子破壊(KO)マウスが得られる。なお、1か所切断では、機能性のスプライシングバリアントが発現したりすることもあるので、私達は開始コドン付近と終止コドン付近の2か所切断して大きく抜き取ることを推奨している。これまで私達の研究室では、精巣に特異的もしくは多く発現する272遺伝子をノックアウトしている。その内、約7割に相当する160遺伝子のKOマウスでは外見上の異常も顕著な妊孕性の低下も認められなかった。これらの結果は、遺伝子の発現様式だけでは、個体レベルでの遺伝子機能やその重要度が分からないことを示している。その一方で、精子形成や精子機能に必須な80遺伝子を新たに見つけることができた。このように、ゲノム編集技術を活用すれば、個体レベルで重要な遺伝子を先に選び出して研究を進められることから、費用や労力・時間に対して得られる成果が大幅に改善され、生物学研究に躍進をもたらすと言える。また、ヒト不妊患者で見られる変異を導入したマウスで表現型を確認するなどのアプローチも簡単になっている。私達の知見を中心に、ゲノム編集を活用した生殖研究の現状を紹介し、未来について議論したい。