[I-SY05-3] 先天性僧帽弁閉鎖不全症における術前のpredictive Wall Stressは術後遠隔期左室機能のsurrogate markerとなりうるか
キーワード:先天性僧帽弁閉鎖不全症, 心不全, predictive wall stress
【背景】先天性僧帽弁閉鎖不全症(cMR)の手術時期は、心不全症状の程度や使用できる人工弁のサイズ、徐々に進行する左室収縮能の低下といった要素から決定される。cMRでは左室から低圧系である左房へも駆出されるため、術前の左室収縮能を過大評価してしまう可能性がある。predictive Wall Stress(pWS)は術前の左室拡張末期径、左室拡張末期後壁厚、そして大動脈の拡張期血圧を用いて算出した術直後大動脈弁開放時に左室にかかる壁応力に相当するもので、小児において手術時期の決定に有用であることが報告されている。【目的】今回我々はcMRにおけるpWSの術後遠隔期も含めた左室機能予後予測能について検討した。【方法】対象は当院において過去20年間に僧帽弁形成術(MVP)または置換術(MVR)を施行したcMR患者で術後の僧帽弁逆流が中等度以下の11例である。これらの症例につき術前超音波検査より左室短縮率(FS)、左室拡張末期内径指数(LVEDDI)、左室収縮末期内径指数(LVESDI)、そして pWSを算出し、術後のFSとの関連を検討した。検定はSpearmanの順位相関検定を用いた。【結果】手術時年齢は10.2±7.0歳(8ヶ月-21歳)、男女比は3:8、MVPは10例にMVRは1例に行われ、術前のFS 0.36±0.04、LVEDDI 6.1±2.5cm/m2、LVESDI 3.9±1.6cm/m2、pWS 167±24.1kdyn/cm2であった。術直後のFSは0.31±0.06で、術前のFSは術直後FSとは相関せず (rs=0.511, p=0.108)、術前のpWSは術直後FSと有意な相関を認め (rs=-0.621, p=0.041)、術前のpWSが160kdyn/cm2以上の症例は全例で術直後のFSが0.30以下だった。術後1-2年経過時のFSが記録されていた7例において、術前のpWS(165±25.4kdyn/cm2)と術後1-2年でのFS(0.38±0.05)との相関を検討したところ、有意な相関を認めた(rs=-0.834, p=0.0197)。【結論】cMRにおけるpWSは術直後の血行動態予測に有用なだけで無く、術後遠隔期の左室機能評価におけるsurrogate markerとなる可能性が示唆された。