[II-IL10] Evolution of Pediatric Cardiology in the Era of Changes and Diversity
医学・医療を取り囲む昨今の「時代」の変化の本質は、(1)生命科学とテクノローの発達、(2)情報革命とそれに伴う情報公開、そして(3)多様なる価値観の出現から生まれたものだと言えよう。小児循環器の分野でも変わりゆく時代の要請に即した「進化」が求められているが、それらは以下の三点に要約される。第一は、「小児科学」自体の概念の進化であろう。小児循環器学における主要対象疾患である先天性や後天性心疾患は、従来は難治性疾患の範疇に属するものであった。近年のより深い病態の理解と診断や治療法の進歩により、小児心疾患の予後や生存率は著しく向上し、多くの患者たちが無事成人を迎えるに至った。その結果、従来経験しなかった新しい病態が出現し、これらがしばしば医療現場での試練と葛藤になっている。「成人先天性心疾患Adult Congenital Heart Disease」と言う新しい臨床領域は、こういった背景から生まれた必然の産物だと言えよう。一方、成人性の心疾患やその危険因子は、小児期の目に見えない前臨床的Preclinicalな異常から始まっていることも判明してきた。これらは、小児癌の長期生存者にみられる成人期の重篤な心疾患の罹患率の高さからも覗える。「小児科学」の一部は、「生涯医学」として進化発展していくことが望まれる。第二は、基礎医学Basic Scienceの重要さの認識であろう。高度最新医療、特に遺伝子治療、幹細胞医療、再生医療、Precision Medicineなどは、分子・細胞レベルの生物学Biologyの理解なしでは成立しない領域である。実験的医療も、その有効性と安全性と採算性が証明されれば、やがて実用化に至る。医師の究極の責務は、患者の健康やQuality of Lifeのための最良の選択肢を提供することにある。そのためには病態の科学的な理解は必須であるが、多くの若い医師達にとって基礎医学に専心できる期間は限られている。臨床医学と基礎医学の乖離への懸念が指摘されて久しいが、どのように有効に基礎医学の大切さを後進の臨床医に伝えていくかは、今後の大きな課題である。そのためには、複雑な生命や病態のメカニズムを明解に指導できる魅力ある臨床教育者の養成が急務であろう。最後に、多様性の問題は、現代社会が抱える問題そのものでもある。多様なる価値観、生命観、倫理観の存在を我々は寛容に受け入れ、ひとつひとつの例に対して柔軟に対応していくことがが肝要である。また医師は、どの社会にも存在する「貧困」や「差別」から目を背けてはならない。大切なことは、先入観や固定観念に囚われず目の前の患者から常に学ぶ姿勢を続けることである。その努力の累積こそが「進化」そのものであり、若い人達は、この主要な担い手として勇気を持って小児循環器学の進化に参加して欲しい。