[III-TRS01-1] Child and Family Development
Keywords:先天性心疾患, 発達, 社会的文脈
人の発達は、共通してみられる順序性(発達段階)がある一方で、個々に異なる特徴を持っている。こういった個人差が、生物学的要因(遺伝、気質など)や環境的要因(家庭、仲間、地域社会など)からどのように影響を受けて生じたのかについて、発達心理学では長く関心が寄せられてきた。特定のコホートを長期に追跡した縦断調査や双子を対象とした遺伝に関わる調査等、特に人の精神障害や問題行動をもたらす背景要因が検討されている。現在まで、その要因の全貌は解明されていないが、個人差は、生物学的要因と子どもを取り巻く環境的要因が時間軸を含んで複雑に絡み合い、相互作用をしながら出現すると考えられている。 個人差は危機的状況おいて顕著に現れることが知られている。例えば幼少期に虐待を受けた子どもは、その後の人格形成に大きな影響を及ぼすと考えられるが、子どもによってはほとんど影響を受けずに健やかな発達を辿る場合がある。危機的状況となり得る虐待からもたらされる帰着点は、その子どもが持つ生物学的、環境的要因と相互に作用し、決してひとつではない。多様な帰着点へのパターンは、虐待発生に至るリスク因子(親の被虐待経験、子どもの育てにくさなど)、それらを和らげる防御因子(有効な周囲の手助けなど)にも左右され、さらに発達の道筋に影響を及ぼす文化や時代的要因によっても変化していく。 先天性心疾患の子どもにとって疾患は、発達の生物学的要因のひとつとなろう。そうなると「疾患」は、他の要因と絡み合いながら、子どもの発達の道筋に影響を及ぼすことになる。疾患の影響の強弱を含めて子どもが辿る道筋は、いくつものパターンが存在することになる。ひとつの要因は、それがポジティブにもネガティブにも作用する。子どもを取り巻く状況の何がリスク因子であり、防御因子となるのか、様々な可能性を思慮した上で、一人一人の成長への道筋を支援をしていくことが望まれる。