第57回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

デジタルオーラル

外科治療遠隔成績

デジタルオーラルI(OR39)
外科治療遠隔成績

指定討論者:帆足 孝也(国立循環器病研究センター 小児心臓外科)
指定討論者:芳村 直樹(富山大学)

[OR39-5] 完全大血管転位症に対する動脈スイッチ手術の治療成績

野村 耕司1, 濱屋 和泉1, 友保 貴博1, 村山 史朗1, 磯部 将1, 山本 裕介1, 星野 健司2, 河内 貞貴2, 百木 恒太2 (1.埼玉県立小児医療センター 心臓血管外科, 2.埼玉県立小児医療センター 循環器科)

キーワード:完全大血管転位症, 動脈スイッチ手術, 冠動脈移殖

【背景と目的】完全大血管転位症(TGA)に対する動脈スイッチ手術(ASO)の成績は安定しているが,冠血流不全による早期死亡や,遠隔期大動脈基部拡大/弁機能不全,肺動脈狭窄といった問題点には依然として配慮と対策を要する.当院では冠動脈移植における手技上の改良を重ね手術成績の改善を目指してきた.当院における過去15年間の治療成績を検討し,これらの取組みの有効性も評価を行った.【対象と方法】2005年2月から2020年12月の期間中,TGAに対してASOを施行された連続64例に対し,診療録に基づく後方視的調査を行った. 【結果】TGA I型:51例, II型:13例.冠動脈形態はShaher 1型:40,2型:9,4型:5,9型:1,3型:4,5型:4,6型:1, 全64例中3例に壁内走行を認めた.平均観察期間は6.8±4.4年.早期死亡は0, 遠隔期に両側房室弁逆流による心不全で1例(1.5%)を失った.再手術は7例(10.9%), 内訳は末梢肺動脈狭窄解除が5例, 右室流出路狭窄解除が1例, 僧帽弁置換が1例であった.遠隔期の左室駆出率は72.9±6.0%, 右室/左室圧比0.5±0.3,左右肺動脈径(Z-score)は分岐部付近が右:-1.2±2.2, 左:-0.5±1.9, 肺門付近が右:0.5±1.5, 左:0.8±1.7であった.全191本の冠動脈中3本(1.6%)に遠隔期の閉塞を認めたが,いずれも他枝の発達によって代償されており虚血性の変化は認めなかった.大動脈弁基部の測定値(Z-score)は, 弁輪:1.8±1.3, Valsalva洞:2.2±1.3, ST junction: 1.2±1.6, mild以上の大動脈弁逆流を7例(10.9%)に認めた. 運動制限を要した3例(4.7%)を除き,遠隔期のNYHA分類は全例I度であった. 【考察】生存率や遠隔期QOLは概ね満足いくものであった.ASO術後死亡の大半が冠不全に起因するとされており,当院の成績には冠動脈移植における改良術式が一定の寄与を果たしているものと考えられた.一方,遠隔期の肺動脈狭窄や大動脈弁逆流についてはさらなる改善が望まれ今後の課題と考えられた。