[P29-3] イバブラジンが奏功した心臓移植後抗体関連拒絶反応によるグラフト不全の一例
キーワード:イバブラジン, 心臓移植, 抗体関連拒絶反応
【背景】抗体関連拒絶反応(AMR)は移植心に対する抗体産生に起因する拒絶反応で、心臓移植後の予後不良な合併症である。免疫抑制の強化や抗体産生細胞を標的とした治療が行われるが、治療後に心機能低下や移植後冠動脈病変が進行して再移植の適応となることも少なくない。【症例】特発性拡張型心筋症(DCM)に対して心臓移植1年4か月後の10歳女児。倦怠感、呼吸苦を先行症状として心肺停止に至り、前医で蘇生後にPCPS・IABPを要した。心筋生検でAMRと診断され、ガンマグロブリン療法、ステロイドパルス、血漿交換を行い、PCPS・IABPから離脱後、追加治療のため当院に転院した。AMR再発予防にリツキシマブを投与し、心筋生検で拒絶所見は改善したが、左室収縮能低下(LVEF 30%)、洞性頻脈(HR 130-150 bpm)、浮腫・倦怠感の悪化を呈し、ミルリノン依存状態となった。頻脈改善目的にβ遮断薬(カルベジロール 0.15 mg/kg+ビソプロロール 0.1 mg/kg)やジゴキシンを導入したが効果に乏しく、BNPも1000-1200 pg/mlで推移した。そこで、イバブラジンを追加したところ心拍数は100-120 bpmに低下し、左室拡張期充満時間の延長とともに左室収縮能改善(LVEF 50%)、BNP低下(400-500 pg/ml)を認め、6か月間にわたるミルリノン投与を終了して自宅退院した。副作用として光視症を認めたが耐容可能であった。【考察】イバブラジンは洞結節に直接作用し、心収縮や血圧に影響することなく心拍数のみを低下させる新たな慢性心不全治療薬である。成人では心拍数75 bpm以上の慢性心不全患者に適応があり、小児でもDCMに対する有効性の報告はあるが、本邦での使用報告は少ない。本症例では既存の心不全治療薬に抵抗性のAMR後グラフト不全に対し、イバブラジンが不適切洞性頻脈を是正して左室充満や冠血流の改善に寄与したものと推測した。除神経された移植心に対するβ遮断薬の効果は限定的であり、イバブラジンはよい適応と考える。