[P52-5] 気管腕頭動脈瘻ハイリスク例に対する予防的腕頭動脈離断術
Keywords:気管腕頭動脈瘻, 腕頭動脈離断術, 予防
【背景】気管腕頭動脈瘻(TIF: tracheo-innominate artery fistula)は喉頭気管分離術および気管切開術後の致死的合併症である.とくに重症心身障害児におけるリスクは高いため,発症予防が重要である.救命を目的とした緊急時の治療としては胸骨正中切開による腕頭動脈離断術が考慮されるが,TIFによる致死的出血を回避するための予防的腕頭動脈離断術に関する一定の見解はない.今回,TIFハイリスク例に対して胸骨切開を要さない胸骨上アプローチによる予防的腕頭動脈離断術を施行し,良好な結果を得たので報告する.【症例】18歳男性.脳性麻痺,痙性四肢麻痺,知的障害,症候性てんかんで加療を受けていた.2年前に肺炎の増悪,喀痰による窒息から心停止となり,低酸素脳症のため気管切開術,胃瘻造設術が施行された.2か月前から気管切開孔から繰り返す出血を認めた.気管内視鏡検査で不良肉芽を認めず,側弯を呈する重症心身障害児であること,造影CT検査で気管前面と腕頭動脈が接していること,腕頭動脈と気管の交差部位と気管カニューレ先端位置が一致していることからTIFハイリスク症例として予防的腕頭動脈離断術の適応と判断された.手術は術前CT,MRI検査による綿密な解剖学的評価のもと,胸骨切開を要さない胸骨上アプローチによる腕頭動脈離断術を施行した.腕頭動脈再建は,左内頸動脈,左椎骨動脈優位の頭蓋内血流分布であったこと,術中脳内局所酸素飽和度の低下を認めなかったことから施行しなかった.腕頭動脈離断においては側副血行路を考慮して右総頸動脈と鎖骨下動脈の交通を温存した.術後の神経学的合併症を認めず,気管切開孔からの出血は消失した.造影CTで右内頸,中大脳動脈の良好な描出を確認,第9病日に退院した.【結語】TIF発症ハイリスクと判断される重症心身障害児において,胸骨上アプローチによる予防的腕頭動脈離断術は,致死的出血の回避に有用であり,治療選択肢の一つと考える.