The 58th Annual Meeting of Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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教育講演

教育講演1(I-EL01)
肥大型心筋症の発症機序解明と戦略的治療法の開発

Thu. Jul 21, 2022 8:40 AM - 9:30 AM 第1会場 (特別会議室)

座長:泉田 直己(曙町クリニック 小児科)

[I-EL01-01] 肥大型心筋症の発症機序解明と戦略的治療法の開発

脇本 博子 (ハーバードメディカルスクール 遺伝学講座)

Keywords:肥大型心筋症, 遺伝子異常, ジェンダーバイアス

肥大型心筋症は遺伝子異常が主な原因で、心筋肥大及び左心室拡張能不全を特徴とする疾患である。欧米では500人に一人の割合で発症するとされるが、無症状の未発見例を含めると更に高頻度である可能性が指摘される。生涯無症状である症例も多い中、若年者の心臓突然死の主因となる危険な疾患であり、その機序の解明と治療法の確立は重要な課題である。
我々の研究室は1990年代に初めてミオシン重鎖の変異を原因遺伝子異常と同定し、疾患モデルマウスの作成に成功した。以来、心筋症の遺伝子異常の同定と発症機序の解明を進め、これらの結果を踏まえた治療法の確立に向け活発に研究を推進してきた。網羅的遺伝子解析法の確立は、異常遺伝子がもたらす一連の遺伝子発現異常の意義解明につながった。異常心筋細胞が発する信号が線維化を促進すること、またミオシン頭におけるエネルギー産生の異常が拡張機能不全をもたらす機序の一つであることなども見出した。最近では臓器レベルはおろか細胞レベルでの遺伝子発現の評価が可能となり、新知見の発見が加速している。治療面では、遺伝子干渉による異常タンパクの発現抑制の成功は心筋症に対する遺伝子治療につながる大きな一歩となった。近年飛躍を続けるCRSPR-Cas9システムは一塩基変換を可能とし、我々も本法を用いた遺伝子治療をマウスに試みている。エネルギー産生異常を是正すべく開発されたATP分解酵素の低分子阻害剤mavacamtenは本年 5月、米国FDAの承認を受け実用化されることとなった。
本教育講演では、15年以上臨床一筋だった筆者が、思わぬ転機で肥大型心筋症の研究に携わることとなり、研究手法の確立から病態機序の解明、ひいては治療法の開発まで幅広く関わることができたその経過、米国における基礎研究の懐の広さ及びジェンダーバイアスやワークライフバランスなどについて知見を共有したい。