[I-P1-4-08] Over systemicの重症肺高血圧症に合併する一病態 “PH-pSAM” の提唱
Keywords:肺高血圧症, 収縮期僧帽弁前方運動, 僧帽弁逆流症
【緒言】Over systemicの肺動脈性肺高血圧症(PAH)の重症病型として,右室左室連関により“発作的に”左室流出路狭窄(LVOTS)・収縮期僧帽弁前方運動(SAM)・重症僧帽弁逆流症(MR)を反復した症例を経験した.体血圧低下を契機に左室が高圧右室に強く押し潰されることで生じ,昇圧で速やかに消失した.この病態の報告は過去になく,“PH-pSAM(pulmonary hypertension related paroxysmal systolic atrial movement)”と名付ける.【症例】25歳女性.新生児遷延性肺高血圧症・心房中隔欠損症と診断され,6歳時に平均肺動脈圧134mmHgの重症PAHと判明し,epoprostenolが開始された.高度側弯のため肺移植は適応外とされた.自宅でのepoprostenol薬液交換時に, 体の火照りに続いて強い動悸が生じ緊急入院した.心臓超音波検査で新規にsevere MRを生じており, 左心不全として強心・降圧・水分制限の初期治療を行ったところ病状が更に悪化した.繰り返し実施した心臓超音波検査からSAMがsevere MRの原因と判断し,phenylephrineを静注したところ,症状もSAM・MRも瞬時に消失した.以後,左室の後負荷増大のため末梢血管収縮薬を高容量で持続投与し,水分負荷とβ遮断薬で虚脱・過収縮を防ぐと状態が安定したが,肺高血圧の治療強化で右室の減圧を試みたところ,副作用による体血圧低下により発作が頻発した.スワンガンツカテーテルを留置し,肺体血圧のバランスをモニタリングの上,epoprostenolの減量に踏み切った結果,昇圧薬の持続静注から離脱することができた.【考察】重症PAHの循環破綻の原因となる新たな病態として,PH-pSAMを提唱する.PH-pSAMの予防には肺体血圧のバランスをとることが肝要で,PAHの治療強化により,むしろ体血圧低下の副作用から発作を誘発する.発作により急激に重篤な心不全に陥る病態であり,primary MRと誤認すると適切に治療できない.本病態について啓発し,注意喚起したい.