[I-P2-3-03] 当科における抗SS-A抗体陽性母体の胎児および新生児の診療経験 ―胎児心エコーにおける房室伝導時間に注目してー
Keywords:新生児ループス, 胎児心エコー, 房室伝導時間
【背景・目的】新生児ループスは母体の抗SS-A抗体により引き起こされる後天性の自己免疫症候群である。完全房室ブロック(AVB)は抗SS-A抗体陽性母体の約1%に生じる。進行が速く完全AVBの予測は困難とされるが、事前に1度AVBがみられる可能性がある。過去に当科において新生児期にAVBを伴わずに劇症型心筋炎として発症した症例を経験した。これを契機に抗SS-A抗体陽性妊婦については産科エコーの他に当科による胎児心エコーを行う方針となったので、この経験を発表する。【方法】2014年から2021年の間に当院で妊娠、出産を管理した抗SS-A抗体陽性妊婦の胎児45例を対象とした。新生児の評価項目は、抗SS-A抗体価、CK-MB、TnI、心電図のPR時間、QTc(F)、HR、心嚢液貯留を調べた。胎児ではAV time(左室自由壁TDI法)を測定した。AV timeはToronto報告の回帰式の回帰係数をもとに週数によって補正し、新生児期の所見と相関がみられないかPearsonの積率相関係数を用いて解析した。またAV timeはM-mode法、pulsed Doppler (SVC-Ao)法でも測定し、比較検討した。【結果】胎児期は心嚢液貯留が1例(2.2%)、AV time>140msが2例(4.4%)であり、新生児期は心外膜炎が9例(20%)、PR>120msは11例(24%)であった。胎児期AV timeと新生児期の抗SS-A抗体価、CK-MB、TnIに有意な相関を認めなかった。AV timeと心電図のPR間隔には弱い相関を認めた(相関係数=0.33、95%CI:0.00652~0.591、p=0.0462)。AV timeの測定方法による差は、TDI<pulsed Doppler(+20ms)<M-mode(+20ms)と概算され参考となると考えた。【結論】抗SS-A抗体陽性母体の胎児期および新生児期に心外膜炎が20%前後みられ新生児ループスの軽症所見と判断したがいずれも軽快した。AV timeは胎児および新生児で延長する症例がみられるが、このことの意味は不明であり予測因子となり得るかどうかを含めて今後検討を行う必要がある。