[II-P5-2-03] 当院における乳び胸の難治化リスクの後方視的検討
キーワード:難治性乳び胸, 術後乳び胸, 先天性乳び胸
【背景】乳び胸の治療法は確立されておらず、難治性乳び胸は致命的になることもまれではない。今回、当院の乳び胸診療をまとめ、特に難治例の臨床的特徴について考察した。【方法】2018年1月から2022年1月までの期間に当院で診断した乳び胸例の患者背景、治療内容を後方視的に検討した。乳び胸の診断は胸水検体でTG>110mg/dLもしくはリンパ球>80%のいずれかを満たすものとした。ドレーン挿入期間が延べ30日以上であった症例を難治例とし、難治例と非難治例の臨床的特徴を調査し、難治性乳び胸の危険因子を検討した。【結果】計30例(術後28例、先天性2例)が該当し、難治例は9例であった。診断時の日齢の中央値143日(0-1470日)、術式は姑息術3例、二心室修復19例、Glenn/Fontan術6例で、基礎疾患合併は11例(Down症候群8例、Noonan症候群3例)であった。13例は食事療法のみで改善し、残りの17例では薬物治療としてステロイドまたはオクトレオチドの投与が行われた。診断から薬物治療開始までの期間は中央値2日(0-26日)、上記内科的治療で28例(93%)が改善し、残りの2症例(TGA術後1例、先天性1例)に対しては、エチレフリン投与とリンパ管静脈吻合・リンパ管造影が施行された。ドレーン留置期間の中央値は17.5日(6-172日)であった。難治例には急性期外科的再介入(OR 10.6, p<0.05)およびECMO装着(OR 14.2, p<0.05)が有意に多かった。難治例9例のうち、4例は基礎疾患を有し、それ以外の5例はいずれも術後に外科的再介入やECMO装着を要する重篤な循環不全症例であった。【考察】難治例は基礎疾患群と循環不全群に大別され、前者では先天的なリンパ奇形の存在が想定される一方で、後者では頻回の胸腔内操作によるリンパ損傷や循環不全によるリンパうっ滞といった異なる難治化の機序が推定された。乳び胸の機序を想定したリンパ管イメージングやリンパ外科治療を組み合わせることでより適切な介入が可能となりうる。