[III-OR26-01] C-Cケモカイン受容体2型遺伝子欠損ラットを用いた、肺高血圧動物モデルにおける肺血管病変形成機序の検討
キーワード:肺高血圧, 動物実験, 炎症
【背景】肺動脈性肺高血圧症(PAH)の肺組織では,肺血管へ炎症性細胞が浸潤し,MCP1等炎症性サイトカインが増加することから,病変形成に炎症が関与するが,その機序や抗炎症療法の効果は不明である。【目的】MCP1の受容体であるC-Cケモカイン受容体2(CCR2)を欠損したラットを用い,肺高血圧(PH)モデルの血行動態指標,組織病変の変化,さらに分子機序を検討する。【方法】CRISPR/Cas9を用いてCcr2遺伝子欠損ラット(Ccr2(-/-))を作成した。同ラットにmonocrotaline(MCT, 60mg/kg)を投与し,投与3週後に,平均肺動脈圧,右室収縮期圧,肺血管病変,肺の炎症性サイトカイン発現を定量的PCRにて,血管内皮細胞のアポトーシス,eNOS発現をWestern blot,免疫組織染色にて評価した。【結果】Ccr2(-/-)では野生型(WT)と比し,MCT投与3週目の右室収縮期圧(32.9mmHg,vs.WT42.9),平均肺動脈圧(28.6 mmHg, vs.WT37.0.)は有意に低下。肺組織病変は,筋性化肺細動脈(32.9%, vs. WT53.6),中膜肥厚割合(7.7%, vs. WT16.5)が有意に軽減し,末梢肺動脈周囲への血管あたりのCD68+細胞数(3.1,vs.WT4.5),CD163+細胞数(1.9,vs.WT2.9)が減少。肺組織における炎症性サイトカイン(IL6, TNFa, MCP1),抗炎症性サイトカイン(IL10, TGFb)のmRNA発現がともに減少した。組織染色において血管内皮細胞のCleaved Caspase3陽性細胞率が減少し,肺組織抽出蛋白の評価でeNOSのリン酸化低下が減少した。【結語】MCP1/CCR2経路の抑制により,M2マクロファージ(CD163+)を含む炎症性細胞の浸潤が抑制され,付随する炎症性サイトカインの発現が低下した。その結果,進行期PHにおける血管内皮細胞のアポトーシス誘導が減少し,血管内皮機能障害が軽減したことからNO産生能が保持される機序が考えられた。CCR2は炎症細胞遊走の機序を介して,血管病変形成への関与が考えられ,また抗炎症療法により内皮機能が保護される可能性が見出された。CCR2は,新しい治療ターゲットとなる可能性が示唆された。