[III-YB06-04] 多臓器疾患を抱えた先天性心疾患患児に対する治療 ー患者・家族にとって最善の医療とは何か?ー
Keywords:複合疾患, 医の倫理, 医療ネグレクト
【背景】先天性心疾患は他臓器の疾患や染色体異常など全身疾患を抱える場合も多く、外科治療介入の是非については、医学的・倫理的・社会的・法的観点から議論されるが、問題点は多く画一的な判断は難しい。我々は複合疾患を抱える新生児を数多く受け入れ、多職種による議論をもとに、治療・ケアを行ってきた。貴重な症例経験を通して、患者・家族にとって最善の医療とは何かについて議論したい。【症例】3歳女児。在胎32週時に羊水過多で前医紹介、羊水染色体より性分化疾患が疑われていた。38週6日に出生後、日齢1に大動脈縮窄と診断され当院に転院。左横隔膜ヘルニア・左肋軟骨欠損・大動脈縮窄・左冠動脈肺動脈起始・右肺動脈狭窄・右肺底区動脈大動脈起始・主要体肺側副動脈(MAPCA)・門脈体循環短絡(PSVS)・低位鎖肛・重度胃食道逆流・性分化疾患・両側強膜化角膜・両側水腎がみられた。日齢25に横隔膜ヘルニア修復・右肺底区動脈バンディングを行ったが、心臓外科手術に対して両親の同意が得られず院内の臨床倫理部会に諮り、医療ネグレクトと判断し親権停止下に日齢62に大動脈縮窄および冠動脈修復手術実施。術後は親権を回復、MAPCA・PSVSに対するカテーテル治療などを行いネーザルハイフローによる呼吸補助・胃管による経管栄養を行い1歳2か月時に自宅退院。以後、呼吸状態は改善し経鼻酸素のみ、経口摂取が可能となり胃管は不要となった。発達の遅れはあるものの両親は育児に前向きであり、良好な家族が形成されている。【考察】複合疾患では生命予後・発達予後を予測することが難しく、治療・ケアの複雑さもあり、医療者・家族ともに将来に不安を感じることが少なくない。先入観・固定観念にとらわれず、多職種の意見・家族の意向も尊重し治療を進めることにより、皆が納得のいく結果につながると思われる。「最善の医療とは何か」という本当の答えは将来振り返って初めて分かるものなのかもしれない。