[III-YB09-02] 本邦における大規模研究:川崎病全国調査を例に
Keywords:大規模研究, 川崎病, 全国調査
臨床研究ではないが、1970年から川崎病全国調査を実施している。2021年に第26回調査が終了し、結果は報告書として公開しており、論文も作成中である。また、現在、2023年に予定されている第27回調査の準備を進めている。これまで延べ423,758人の患者が登録されており、大規模研究といえるだろう。 川崎病全国調査は全国の(1)100床以上で小児科を標榜する病院、および(2)100床未満の小児専門病院を対象に実施しており、対象病院は1700病院を超え、回答率も70%を超えている(患者の捕捉率は90%以上と推計している)。我が国の川崎病の疫学像を明らかにするためには高い回答率は必須で、そのために、(1)数回にわたる督促(初回督促は初回の依頼時に送付した調査票など1式に加えて督促状)、(2)前回の調査で当該医療機関から報告された患者の一覧表の同封、(3)報告いただいた病院への報告書の速やかな送付、(4)報告書のウェブ上での公開、などの工夫を行っている。また、関係者からの相談があれば、匿名化した上で、必要な生データの提供も行っている。 以上のような研究で、国際的にも注目されているが、問題もある。研究に要する経費は現在は日本川崎病研究センターの研究費でまかなっているが、持ち出しの部分も多い。近年は特に医療機関の医師も忙しく、労力の提供をお願いするのが心苦しい現状もある。多くの医療機関で電子カルテを導入しており、これを活用した電子情報でのデータ収集も考えられるが、電子カルテの標準化がなされていないために、実現へのハードルは高い。 近年はEBMの普及により、大規模臨床研究が盛んに行われている。これは大変結構な話ではあるが、一方で、個別の研究が衰退し、研究者の研究力が落ちていくことが懸念される。大規模臨床研究を通じて、いかにして研究の裾野を広げ、若手の研究力を高めていくのかが今後の課題であろう。