[II-OR20-01] 完全大血管転位症Ⅲ型に関する血行動態シミュレーション
Keywords:完全大血管転位症, コンピュータシミュレーション, 肺動脈狭窄
【背景】完全大血管転位症Ⅲ型(TGAⅢ)は肺動脈狭窄(PS)の程度や複数の短絡の大きさ次第で様々な経過をたどる。しかし、各因子が相互に影響しあう循環の複雑さから、血行動態の評価や治療介入による影響の予測が容易ではない。【目的】血行動態の要素を個別に変化させることのできるコンピュータ・シミュレーションによりTGAⅢの血行動態モデルを構築し、PSや各短絡の血行動態へ与える影響を解析する。【方法】3要素Windkesselモデルと心室の時変エラスタンスモデルを組み合わせ、TGAⅢ循環モデルを構築した。体肺動脈シャント(APS)を伴わないTGAⅢ循環において、PS、心房中隔欠損(ASD)の血行動態パラメータを変化させ、体血流酸素飽和度(SaO2)と体肺血流比(Qp/Qs)の関係を検討した。次に適度なPSと制限のあるmoderate-small ASDを伴うSaO2が70%となる低酸素モデルを作成した。適度とは制限のないlarge ASDによる十分なmixingを伴えばSaO2が80%となるPSと定義した。このモデルに対しASD拡大やAPS造設を想定したパラメータの変化を施し、手術介入の血行動態への影響を評価した。【結果】APSを伴わない循環について、SaO2が80%以上となるTGAⅢ循環は体肺血流比(Qp/Qs)が1.6以上であった。また、適度なPSより狭い狭窄がある場合にはASDをいくら大きくしようともSaO2は80%未満となった。次に低酸素モデルはSaO2 70%、Qp/Qs 1.7と計算され手術介入によりSaO2を80%まで上昇させた際のQp/Qsは、ASD拡大では1.7と変わらなかったが、APS造設では2.8まで上昇した。【考察】TGAⅢ型において良好な体循環の酸素化を維持するためには、比較的高いQp/Qsが必要であり、循環の懸念を伴うことが確認された。また、治療に関して、ASD拡大はAPS造設に比して循環動態を大きく変化させない利点があった。今後、本研究を実際の症例の循環と関連付けていくことで、循環に応じた評価や最適な治療選択の一助となると考えられる。