[III-PSY4-07] 乳び胸腹水に対するリンパ管吻合術の適応と限界
キーワード:乳び胸, リンパ管疾患, リンパ管静脈吻合術
リンパ管は全身の至るところに存在しリンパ液の回収・運搬に関わる、循環系臓器の一つである。乳び胸腹水は数あるリンパ管疾患のうちの一つであるが、ドレナージやシャント、胸膜癒着術などの外科的介入のほか、サンドスタチンや絶食などの内科的保存療法を各専門科がそれぞれ分担することが多く、リンパ管に特化した治療は困難とされてきた。一方、形成外科では体表病変であるリンパ浮腫の診療に端を発し、リンパ流の評価法や再建に関する研究や開発を、比較的操作がしやすい体表で行っている。近年は精度の高い蛍光造影法が開発され、機器の改良も追い風となって、直接リンパ管に手術操作を加えてリンパ流を再建することが一般的となってきた。例えばリンパ管静脈吻合術は、1−2cmの皮膚切開から直径1mm以下の体表の末梢リンパ管および同径程度の静脈を剥離・吻合し、リンパ管から静脈へのバイパスを作成する低侵襲な方法で、われわれが得意とする術式である。演者は形成外科医として、成人の浮腫患者を対象としたリンパ管疾患の病態理解、リンパ外科手術の修練を経て、小児専門病院において主に先天異常によるリンパ管疾患に対する新たな治療法の開発に取り組んできた。本会では、具体的な症例を供覧し、既存の治療法にリンパ流再建という観点を加えた、新しい治療戦略の概要を説明する。特に治療方針の策定にあたって、リンパ管吻合術を含めた治療戦略や治療の効果と限界について共有したい。諸先生方が日常診療で治療に困難を感じる乳び胸腹水の治療方針の一助となれば幸甚である。