第60回日本小児循環器学会総会・学術集会

講演情報

ポスター発表

胎児心臓病学

ポスター発表(I-P02-2)
胎児心臓病学2

2024年7月11日(木) 14:20 〜 15:20 ポスター会場 (2F 多目的ホール)

座長:三好 剛一(国立循環器病研究センター 研究振興部)

[I-P02-2-10] 無症候性母体由来の抗SS-A抗体による胎児期発症の僧帽弁腱断裂の1例

稲熊 洸太郎1, 飯田 尚樹1, 豊田 直樹1, 石原 温子1, 若見 達人2, 森 おと姫2, 吉澤 康祐2, 坂崎 尚徳1 (1.兵庫県立尼崎総合医療センター 小児循環器内科, 2.兵庫県立尼崎総合医療センター 心臓血管外科)

キーワード:抗SS-A抗体, 新生児ループス, 僧帽弁腱索断裂

【緒言】新生児ループス(NLE)は,母体由来の抗SS-A,抗SS-B抗体によって心病変,皮膚病変,肝機能異常などを生じる自己免疫症候群で,心病変として完全房室ブロックが広く知られている.一方,NLEに伴う心筋障害として房室弁腱索断裂との関連の報告もあるが,胎児期の腱索断裂は非常に稀で,僧帽弁についての文献報告はない.今回,胎児期発症の僧帽弁腱索断裂の自験例について報告する.【症例】母体31歳,G1P0,既往なし.前医で妊娠24週に肺動脈弁狭窄,右室低形成,高度TRを指摘され,30週0日に当院紹介.初診時エコーでは順行性肺血流を認めず,動脈管は左右短絡で,右室低形成,高度TRに伴う機能的肺動脈閉鎖と判断し,34週の再検でも著変なかった.その後35週3日に胎動減少を主訴に受診,腹水貯留を認め,胎児機能不全に対して緊急帝王切開で出生.体重2590g,Apgor score 3/3点.胸部レントゲンで著明な心拡大,エコーで僧帽弁腱索断裂による重度MRを認め,日齢1に僧帽弁形成術を施行した.術後は中等度MRまで軽快したが,緑膿菌による縦隔炎を発症し,感染制御困難で多臓器不全により日齢21に死亡した.なお,出生時採血で抗SS-A抗体≧240U/mLと高力価で,エコーで乳頭筋および心内膜の輝度上昇があり,剖検病理組織では僧帽弁腱索と乳頭筋の石灰化・線維化および心内膜の肥厚・線維化を認めた.母体は無症状で,後日に抗SS-A抗体陽性を認め,本症例は無症候性母体由来の移行抗体による胎児期僧帽弁腱索断裂と診断した.【考察・結語】胎児期の僧帽弁腱索断裂の原因として,右室低形成および三尖弁逆流に伴う心房間右左短絡血流の増大による左室容量負荷によって乳頭筋障害の進行が助長され、胎児期発症となった可能性が考えられる。また胎児期の心内エコー輝度上昇は,心筋の石灰化や線維化を伴う慢性炎症所見との報告もあり,心筋障害の指標の一つとしてNLEに伴う心病変合併の可能性を念頭に置くべきである.