[I-PAL-2] 母体高血糖による細胞内pH低下が食餌依存性の胎児左右軸異常を誘導する
キーワード:Heterotaxy, 母体糖尿病, Wntシグナル
【背景】糖尿病合併妊娠は、内臓錯位症候群を含む先天性心疾患の確立されたリスクファクターである。一方で、高血糖が左右軸異常を誘導する作用点や、様々な内臓錯位パターンが出現する機序については不明である。【方法】ストレプトゾトシン誘導糖尿病母体マウス胚を用いて、whole-mount in situ hybridization及びRNA-seqによって胚の遺伝子発現変化を観察した。レポーターマウスを用いて胚のWntシグナル、レチノイン酸シグナルについて解析した。pH蛍光指示薬を用いて胚の細胞内pH(pHi)を観察した。【結果】母体糖尿病胚では、側板中胚葉における多様なPitx2発現パターン(内臓正位、右側相同、左側相同、内臓逆位)が観察された。胎生8.0胚のnodeにおけるNodal発現は前方ドメインが短縮しており、これはWnt3a null胚の表現型に類似しており、実際に母体糖尿病胚ではWntシグナルが減弱していた。高濃度グルコース培養胚へのCHIR-99021添加によってPitx2発現パターンがレスキューされた。高血糖の作用点として、RNA-seqの結果から解糖系調節異常が示唆された。高濃度グルコース培養胚では、原条領域におけるpHiが低下し、培地pHを上昇させるとWntシグナル及びNodal発現ドメインが正常化した。さらに、母体ビタミンA摂取量を増加させると、糖尿病母体胚における異常なPitx2発現パターンが増加した。母体糖尿病胚及びWnt3a null胚におけるレチノイン酸シグナルは亢進しており、レチノイン酸代謝関連遺伝子Cyp26a1発現の減少がその原因と推察された。【結論】母体高血糖はpHiを低下させることでWntシグナルを抑制し、左右軸形成だけでなくレチノイン酸代謝を障害する。母体糖尿病胚は、母体のビタミンA摂取量変動に対して感受性が高いため、多様な左右軸異常パターンを形成する。糖尿病合併妊娠における内臓錯位症候群を予防するためには血糖コントロールに加えて過剰なビタミンA摂取の回避が重要である可能性がある。