[I-SY4-1] 肺動脈性肺高血圧症とシェアストレス
キーワード:シェアストレス, 肺動脈性肺高血圧症, 血流
なぜ、いまシェアストレスなのか。古くから、大人を想定した動脈硬化に対する病的な乱流を伴う低シェアストレス(-5~+5 dyn/cm2)の研究は盛んになされてきた。しかし、ここで紹介するのは病的高シェアストレスについてである。シェアストレスとは、血流が血管内皮に与える“ずり応力”、つまり摩擦力である。近年の血流に対する画像評価やシミュレーション医学の進歩に伴い、心室中隔欠損に伴う早期の高肺血流による肺高血圧において、または既に肺血管抵抗の高い特発性・遺伝性肺動脈性肺高血圧(PAH)において、肺細動脈レベルでは100 dyn/cm2を超える病的な高シェアストレスが生じていることが新たに示された。しかし、100 dyn/cm2を超えるシェアストレスに対する基礎研究はほとんどなされておらず、生理的解釈が追いついていない。我々はフローポンプシステムや左右短絡に伴う肺高血圧マウスを用いて、この病的高シェアストレス刺激自体が血管内皮細胞において内皮間葉転換をきたし、肺細動脈を閉塞させていく誘因であることを見出した。この結果は、病的高シェアストレス自体が左右短絡に伴う高肺血流によるPAH発症の誘因であることを示しただけではなく、特発性・遺伝性PAHによりすでに発症し、狭窄した肺細動脈におきている病的高シェアストレスも、その後さらに悪化していく、進行性メカニズムの誘因として関与している可能性を示している。PAHの発症や進行性メカニズムの誘因の一つがシェアストレスの病的上昇という、血流による物理的刺激であるとすると非常に理解しやすく、抗リモデリング治療薬開発においても焦点を絞りやすくなる。血流やメカノストレス、メカノセンサーに着目した肺高血圧の基礎研究は、血流変化を伴う先天性心疾患を専門とする、まさに「小児領域発の肺高血圧研究」であり、私からはこのシェアストレス研究の魅力と今後の展望について紹介したい。